<カムカム>オダギリジョーの凄さ 錠一郎の“秘めた哀しさ”繊細に表現

2022/01/15 05:30 配信

ドラマ レビュー

ジョー(オダギリジョー)(C)NHK

“朝ドラ”こと連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)。現在は、るい(深津絵里)とジョーこと大月錠一郎(オダギリジョー)との恋が進展中。第11週(1/10~1/14)ではジョーがるいに思いを告白“一緒に東京に行こう”と誘った。とりわけ第52回、額の傷を気にするるいに見せたジョーの優しさにグッと来た。戦災孤児としてつらい体験をしてトランペットだけが救いだったジョーの繊細な内面を演じて視る者の心震わせるオダギリジョーについて、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)

“多感な若者”を深みもって演じるオダギリジョー&深津絵里


ヒロイン・深津絵里、相手役・オダギリジョーとはなんて贅沢なキャスティングだろうか。

どちらも華と実力を兼ね備えたトップスターである。通常、朝ドラで彼らくらいのキャリアの俳優が登場する場合、主人公の両親あるいは恩師のような立ち位置の役で登場することが多い。

これまでは、ごく例外をのぞいて、まっさらの新人か、ある程度活躍している二十代が主要人物にキャスティングされてきた。「カムカム」では深津とオダギリがヒロイン及びその相手役で、しかも目下、十代のるいと二十代のジョーを演じているのだから大胆かつスペシャルな試みである。

年を重ねると、経験が積まれ、その分、深みが出てくる。それをふたりは、多感な若者の千々に乱れる繊細な感情に置き換えて演じている。深津絵里に関してはいずれ改めて書くとして、ここではオダギリジョーの凄さに注目したい。

役名は錠一郎でジョー。オダギリジョーと同じ名前であることにも作り手のなみなみならぬ思い入れを感じてしまう。日本人で「ジョー」と呼ばれて様になる人はなかなかいない。オダギリジョーだからこそ才能あふれるトランペッターのジョーとして違和感がない。

ジョーこと大月錠一郎は道頓堀のジャズ喫茶「Night and Day」に出いりしているトランペッター。かなりの才能の持ち主らしく、友人で同じくトランペッターのトミー(早乙女太一)に一目置かれている。

トランペット一筋で、それ以外にはまったく構わない性分で、服に食べ物をやたらとこぼすちょっと拔けたところもある。第51回では小学生のように車酔いするという弱点も露わにした。

ジョーの見た目はしゅっとしてかっこよく、演奏も巧いが、どこかつかみどころがない。

だから最初、るいは「宇宙人」とあだ名をつけていた。じつは戦災孤児で天涯孤独に生きてきたという過去がある。辛いとき、彼を支えてきたのがトランペットとジャズだった。

るいの父母・安子(上白石萌音)と稔(松村北斗)とゆかりのあるジャズ喫茶のマスター・定一(世良公則)の歌った『オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート』がジョーにとって大切な思い出の曲になった。この曲を聞いて育って、日なたの道を探して生きて来たことがるいと共通していたという運命はドラマティックである。

ジョーがこの曲を演奏するとき、白いあたたかな光が注いでいる。いや、当人のカラダから光が出ているようにも見える。

単なる若さゆえのまっさらな天才性ではなく、深い哀しみを背負ったうえで芸術にのめりこんでいく者の雰囲気は、やはり俳優として、また昨今は監督としての経験を積んできたオダギリジョーだからこそ出せるものであろう。