<カムカム>深津絵里、“熱演せず”とも人生の深み表現 母役で見せた“さりげない”母性に感動

2022/02/05 05:30 配信

ドラマ レビュー

大月るい(深津絵里) (C)NHK

“朝ドラ”こと連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)。第14週(1/31-2/4)では、3代目ヒロイン・ひなた(子役・新津ちせ/本役・川栄李奈)の幼少期が描かれており、2代目・ヒロインるい(深津絵里)は、すっかり母の顔が板についている。改めて、18歳から母役までを見事に演じる、るい役・深津の繊細で自然な演技について振り返りたい。フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)

“絶妙”な加減で感情表す


深津絵里がすごいと、「カムカム」に18歳役で初登場したときから注目の的だった。深津演じるるいは、「カムカム」初代ヒロイン・安子(上白石萌音)の娘。小学校にあがる年、母と衝撃の別れを経験する。不慮の事故で負った額の傷と母との別れ、ふたつの悩みを抱えて生きてきたが、錠一郎(オダギリジョー)との出会いによって彼女に変化が訪れる。

深津絵里が一段とすごいと筆者が感じたのは第14週第66回だった。るいは京都で回転焼き屋さんを営んでいる。ところが「およげ!たいやきくん」のヒットでたい焼きブームが巻き起こり回転焼きが売れなくなってしまう。当初、原因がわからなかったるいがテレビで流れた「たいやきくん」を聞いて「これや!」と気づいたときの表情に目が釘付けになった。

衝撃と、ある種の憤りと困惑、悲嘆、あらゆる感情がるいの瞳の中にうごめいていた。これらの感情を区分けして極端に表現すると怒りや悲しみが強く視聴者に届いてちょっとうるさく感じるだろうし、深刻ではなく笑いに転化すると、それはそれで内容が浅いものになってしまうだろう。

深津演じるるいは若干涙目で呆然とテレビを見ていた。それによって「たいやきくん」が原因で回転焼きのピンチが訪れたことを、ほどほど真剣に、ほどほどユーモラスに見せた。

このさじ加減が絶妙だ。負の感情をコーヒーにミルクを入れるようにこれほどマイルドに表現することはなかなかやれるものではない。ひじょうに繊細な技能である。デビュー以来、多くの人気ドラマに主演して多くの視聴者に愛されてきた深津絵里の実力だ。


“熱演しています”という感じはいっさいなく


そういえば、あのレジェンドCM「JR東海 クリスマス・エクスプレス」(1988年)もすねた顔が魅力的だった。

ドラマも映画も大ヒットした彼女の代表作のひとつ「踊る大捜査線」シリーズの恩田すみれも、いわゆる男勝りだとか女性らしさとかを強調することなく“恩田すみれ”という個性を作り出して、それがとても魅力的だった。

そう、深津絵里はいつだって、我々が思うこうなるであろうという予想をさらりと覆してきた。