<カムカム>深津絵里、“熱演せず”とも人生の深み表現 母役で見せた“さりげない”母性に感動

2022/02/05 05:30 配信

ドラマ レビュー


最初に深津が注目されたのは、1988年に公開された映画「1999年の夏休み」で、彼女は“少年”を演じていた。そこからして意外性があった。ベリーショートで、いまでいうジェンダーフリー感があった深津。「西遊記」の三蔵法師役なんてその極地であろう。

その一方で、連続ドラマ「きらきらひかる」「カバチタレ!」「恋ノチカラ」など仕事に懸命な役で共感を集めた。

二十代の頃、深津絵里はなんで朝ドラのヒロインをやらなかったのだろう。引っ張りだこ過ぎてタイミングが合わなかったのかもしれないし、朝ドラのようなドメスティックなものには興味がなかったのかもしれない。

なにしろ映画では三谷幸喜のコメディから「悪人」「岸辺の旅」など文芸作的なものまで幅広く、舞台は野田秀樹のプロデュース公演によく出ていて、萩尾望都原作の「半神」や坂口安吾の小説を下敷きにした「贋作 桜の森の満開の下」、外国人の演出家・サイモン・マクバーニーが谷崎潤一郎をモチーフにして手掛けた「春琴」など文学性の高い作品に多く出て実力を発揮していた。

2012年、野田がオリンピックをテーマに書いた「エッグ」では超人気歌手役を演じて椎名林檎による楽曲を歌っていた。2015年にはパリ公演にも出演している。声がいい。透明で繊細だが凛とした声。少女時代から四十代になっても濁ることなく透明性を保っている。それが「カムカム」のるいにはぴったり。

深津絵里が朝ドラに出演するにあたって、18歳のヒロインから子供を持つ母親までをやることに挑んだところはやっぱり意外性の人・深津絵里だなと思う。若い俳優が少女時代から母まで演じることはあるが、母世代の俳優が少女時代からここまで長い期間、しっかり演じることは珍しい。

当人はちゃんと「大丈夫?」と客観性を持って18歳を演じていたそうで、年齢差がかなりある村上虹郎演じる叔父とのシーンを心配していたと演出の安達もじり氏は語っていた。(※木俣冬執筆ヤフーニュース個人「これ大丈夫?」上白石萌音から深津絵里へ〈カムカムエヴリバディ〉が週半ばでがらり変わった理由 2021/12/23配信より)

若干、心配な点もあった十代のターンを過ぎ、母になってからは、眠るひなたにそっと寄り添うところや、過去に負った額の傷をひなたに「おかあちゃんのこれ(傷)『旗本退屈男』みたいでかっこええなあ」と言われたときの表情などもいかにも熱演していますという感じはいっさいなく、あくまでもさりげないながら、若い俳優が頑張ってお母さん役を演じたときには出しようのない包容力や生きてきた長い時間が見えて深い感動があった。

ひなたが川栄李奈になって本格的にひなた編になったとき、どんなるいを見せてくれるか、やっぱり予想を裏切ってくれると信じている。