――なるほど! ちなみに又吉さんとせきしろさんはどちらも執筆活動していますが、本を書く上でアドバイスをもらったりは?
又吉さんにはもらいました。書く前にも相談したところ、「とにかくその時の感情を書かないと。ただのおさらいになっちゃダメだから」と言ってくださったのは、結構大きかったです。編集の方も同じことをおっしゃっていたので、そこは絶対意識しなきゃいけないんだなと。
又吉さんはもの作りする人間にダメ出しを絶対しません。「その人が作ってる大事なものを、俺なんかが汚しちゃいけない」と考えているから。それくらい謙虚な方なので、面白いと言ってくださいました。ただ、「このくだりはお前が悪く見えそうだから、ここを分厚くして補填したら?」とか、僕にとってマイナスにならないように整えるやり方をアドバイスしてくれて。本当に仏みたいな人です。あとうれしかったのは、「俺の関西弁が、ちゃんと俺の感じで再現されてる。綾部のセリフも、めちゃくちゃ綾部やな」と言われたことですね。
――実際、臨場感があって感情移入しやすく、ページをめくるのが楽しかったです。ちなみに、作中でも又吉さんのお話はたくさん出てきますが、村上さんの思う又吉さんの一番すごいところはどんな点ですか?
又吉さんって多分、20歳になるより前に「全部気づいちゃった」人なんですよね。何が面白いのかということに。だから又吉さん自身の面白さは売れる前からずっと変わっていないんですが、周りの人がその面白さに気づけるようになって、より最強になったという感じです。又吉さん自身は何も参考にしていないし、自分の信じることをやるという強さがすごいです。
――本作には「アイドル人気に悩んでいた」というくだりがありますが、そこは自分の中でどう折り合いをつけたのでしょうか。
当時又吉さんが「村上がアイドルっぽくやってんの、おもろいな」とか、「村上はそれができるからえらい」と言ってくれたんですよ。他にも芥川賞作家の中村文則さんが又吉さんの知り合いで、会わせてもらったことがあります。その時に、「村上くんが両手を丸めて口元に当てるあのポーズ、面白いね〜」と言ってくれました。面白い作品の極みを作っている人が、あれをちゃんとボケとして受け取ってくれるんだ、と思って。一方でアイドルっぽい写真を撮りたい雑誌の人は、このポーズを喜んでくれる。
「アイドルっぽく見られたくない」というプライドがありましたが、尊敬している人に「面白いね」と評価されているという後押しがあれば、100人に「アイドルぶりやがって」と言われたとしても、はねのけられるんです。信じている人が何人か認めてくれれば、立ち向かえるなと。
――「アイドル的人気」と「面白さ」は必ずしも両立不可能なものではないと思いますが、やはりアイドル視されることは気になりましたか?
それを両立できると思う人は少ないんですよね。キャーキャー言われてるってことだけで「軽い」笑いだと思われてしまいがちで。それに加えて、当時の僕自身がかなり五里霧中の状態だったので、本当はそんなことはないのに、周りからなめられていると思い込んでいたのかもしれない。でも又吉さんの言葉によって、両立できると教えられた部分があります。
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