コロナ禍がなかったら、今のしずるじゃなかった
――本作は相方のKAZMAさんも読んだのでしょうか？
池田はまあ読まないです。俺のことを知るために、時間を使いたくないんだと思います。
――村上さんは「しずる池田大好き芸人」を見たようですが、いかがでした？
普通に声を出して笑いましたね。とりあえず、奥さんがめちゃくちゃ面白かったです。YouTubeの編集をミスって、「タイトルテキスト」ってそのまま出しちゃったり。とんでもない、最高のボケでした。あと革新的なのが、広瀬すずちゃんに自分の考えたボケをやらせて、ウケてる。あれはテレビの極みですよね。しかも広瀬すずちゃんがすっごくかわいく映って、プロデューサーの加地さんに「もう一回見たい」とまで言わせちゃう。すずちゃんとのやりとりは、すごかったと思います。
――本作にも書かれていますが、しずるはそれぞれが作ったコントのみで単独ライブを別々に打つ、他にはないコンビです。お2人のネタには、どんな違いがあると思いますか？
池田の価値観は、「とにかく笑ってもらえさえすればいい。スベったら嫌だ」なんです、おそらく。僕は、「ウケる」以外の感情を持ち帰ってくれてもうれしいです。なんなら泣いてくれてもいい。「ネタを見て泣きました」と言われたら、その人の感情を動かすことができたわけじゃないですか。「笑いながら泣いちゃいました」なんて言われたら、唯一無二な感情を与えている可能性がある。その面でのスタンスやアプローチに違いがあると思います。
――村上さんの思う、KAZMAさんとご自身それぞれの強みは何ですか？
僕の方が「ポップさ」はあると思います。一方で池田は職人気質なところがあって、ブレずに「面白い」だけを追求できる。そこはすごいですね。僕はわりとすぐブレるので(笑)
――ここ最近のしずるは、村上さんは執筆活動、KAZMAさんはYouTubeに力を入れています。こうしてお互いが独自の道を拓けたのは、コロナ禍の影響も大きかったですか？
そうですね。コロナ禍でライブや営業がなくなり、2人で会う仕事が何ヶ月もなくなって、その間に僕はnoteを書いていました。お金を払った人しか見られない、一種の密閉空間で自分のことを綴っています。一方で池田は誰もが見られるメディアで、素を出さずに5つのキャラクターを生み出し、配信していました。お互い違う媒体で活動していたことで、コンビ活動を再開したときにすんなり始められたんですよ。自分も気持ちを整理できたし、池田はずっと好きなことをやっていて、改めて2人になったら、スクラムを組みやすかった。不思議な感じでしたね。コロナ禍がなかったら、今のしずるじゃなかったかもしれないし、僕は本を出していなかったと思います。
「これがやりたい」という衝動がないと、たくさんあるエンタメの中で通用しない
――村上さんが芸人になったころと比べて、エンタメの在り方は変わってきていると思います。今、エンタメはどうあるべきだと思いますか？
いわゆるエンタメ業界がどうあるべきかなんて大それた話はできませんが、僕が考えるエンタメで言うと、一番手前にあるのは「素直な自分でいること」です。「コントを作りたい」「ドラマに呼ばれて出たい」、素直にそう思うことをやる。「エンタメ」と「率直な気持ち」って逆の言葉のようにも聞こえますけど、本物の気持ちがないと、たくさんあるエンタメの中で通用しない気がするんですよ。僕の性格的にもうまくこなすより、体重を乗っけてできることが、何かしらの芸になっているので。ざっくりとした言い方ですけど、そうしたほうがいい気がします。
世間の人たちに見てもらうためには、素直に「これがやりたい」という衝動が必要だし、それは別にお笑いでも脚本でも歌でもいい。実際に僕が歌ったエンディングテーマが収録されている、単独ライブのサントラ盤を出してますから(笑)。
――今回の本は自伝ですが、いずれフィクションを書いてみたいという思いは？
生きてるうちに、一つは書いてみたいですけどね。短編は書いたことがありますが、短編と長編ではこれだけ違うのかと今回痛感しました。フィクションで長いお話、書いてみたいです。
※KAZMAの「Z」、正しくはストローク付きラテン大文字Z。
(取材・文／篠崎美緒)
この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。
裸々(らら)
著者：しずる・村上純
発売日：2022年3月25日(金)
定価：1,870円
書籍仕様：四六判 / 344ページ
出版社：発行 ドワンゴ／発売 KADOKAWA
