「藤井風テレビ」に見る、藤井風のエンターテイメント哲学 音楽とお笑いの幸福な関係

2022/05/03 10:00 配信

バラエティー 音楽 コラム

藤井 風アーティストビジュアル

4月23日、30日に放送された「藤井 風テレビ with シソンヌ・ヒコロヒー」(テレビ朝日系)を、音楽ライター・レジーがレビュー。コントへの挑戦からみる藤井風のエンターテインメント哲学について、また「コントのある音楽番組」である当番組をはじめとした、音楽とお笑いの幸福な関係について語る。

藤井風とエンターテインメント精神


4月23日、30日に「藤井風初の冠番組」として2週連続で放送された「藤井 風テレビ with シソンヌ・ヒコロヒー」(以下「藤井風テレビ」)。事前のCMでは、彼の知名度を一気に高めた昨年の紅白歌合戦と同じ、「きらり」のキーボード弾き語りが流れていたが、初回となる23日の放送はその弾き語りが長谷川忍(シソンヌ)によるツッコミで中断させられる場面からスタートした。

シソンヌヒコロヒーという実力派お笑い芸人を迎えての「藤井風テレビ」のメイン企画は、本格的なコント。藤井は時にピアニストとして、時に刑務所帰りの彼女を待つ青年として、様々な役柄を着実にこなした。

それぞれの役回りで共通していたのは、何とも言えない空気の読めなさ加減。真顔でどこかずれた言動を繰り出すキャラクターの造形は、普段から飄々とした雰囲気を崩さない藤井の佇まいから着想を得たものなのだろうか。

特にインパクトがあったのは、30日のコント「大工の棟梁」。モノボケをひたすら続けるこのコントは、「藤井くんが一番しんどい、芸人でもやるのが嫌な…」と長谷川が言うような非常に難易度の高いものだった。そんな状況において、芸人たちのボケをノリツッコミで受ける藤井のとぼけた雰囲気は、『ダウンタウンのごっつええ感じ』のコント「MR. BATER」の松本人志からインスパイアされたかのようだった。番組冒頭では「実はお笑いが大好き」という紹介が入っていたが、この番組ではその説明も十分にうなずけるコントでの立ち振る舞いを随所で楽しむことができる。

才気あふれるミュージシャンとして注目され始めた藤井が、このタイミングでなぜコントにチャレンジしたのか。そこには彼のルーツも関係しているのではないかと思う。

「中2くらいからクラスの中でもすっごい変なキャラになっていて。とにかく変なお笑いのネタみたいなのを友達と作って、それを手当たり次第いろんな人に披露するというか、いろんな人の前でやって困らせるみたいなことをやるようになったんですよ」

「音楽的なことを追求するのとはまた別のところにあるエンターテインメントの要素というか。そういうものを発散させてたところはあったのかもしれないですね」

(『MUSICA』2022年5月号掲載のインタビュー記事における藤井の発言)


音楽には人を楽しませる力があり、その力は人を笑わせることとも結びついている。そんなことを藤井は少年時代から直感的に理解していた。そういった観点から考えれば、今回の「藤井風テレビ」は彼のエンターテインメントに対する哲学の表現とも言うことができるのではないだろうか。