音楽番組としての「藤井風テレビ」
もっとも、「藤井風テレビ」はコントが主体でありながらもピュアなお笑い番組ではなく、周到に計画された「コントのある音楽番組」だった。
たとえば、コント「プロポーズ」や「ピアノバー」では、コントを引き立てるピアノ演奏を通じてアーティスト・藤井風を存分に味わえる作りになっていた。また、お見送り芸人しんいち「僕の好きなもの」を換骨奪胎したコント「名曲カバー」は、藤井の強みの一つでもある即興性の高いパフォーマンス力があるからこそ成立するものだった。
コントに音楽的な側面を忍ばせたうえで、最後には「まつり」と「青春病」をバンドとともにじっくり聴かせる。そんな番組の構成は、藤井に備わっている「自由に音楽を楽しむ姿勢」をプレゼンテーションするうえで最適なものだったように思う。
ちなみに、「コントのある音楽番組」としての色合いは、番組を作るにあたっての座組にも表れている。この番組のディレクター、プロデューサーにはテレビ朝日の看板音楽番組である「ミュージックステーション」「関ジャム∞完全燃Show」のスタッフが並んでおり、「藤井風テレビ」もそれらの流れの1つとして捉えられていることが伺える。この先、同局においてどんな展開が待っているのか楽しみにしたい。
音楽とお笑いの幸福な関係
日本の芸能史において、音楽とお笑いとの関係は不可分なものであると言っても過言ではない。
今のシーンのトップランナーである星野源が喜劇役者としての側面を持っているのは周知の事実であり、また彼が頭角を表し始めた2010年代後半には「PPAP」(ピコ太郎)や「PERFECT HUMAN」(RADIO FISH)などお笑い芸人によるヒット曲も多数生まれた。
さらに時代を遡れば、1990年代における産業としてのJ-POPの急拡大には、「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」「うたばん」でそれぞれMCを務めたダウンタウンと石橋貴明によるアーティストのキャラ付けが大いに影響している。
また、「うたばん」のもう1人のMCである中居正広の所属していたSMAPがバラエティ番組に勝機を見出してブレイクしていく際に、グループの関係者が「SMAPを平成のドリフターズにしたい」という思いを持っていた…というエピソードがある。そのドリフターズがかつて出演していた「8時だョ!全員集合」における志村けんのネタを引用して当時の音楽シーンで異彩を放つことになったのが、サザンオールスターズ「勝手にシンドバッド」である。
お笑いと音楽が高次元で融合した今回の「藤井風テレビ」は、前述したような日本のポップミュージックの歴史に藤井風という才能あるミュージシャンを改めて位置づけ直す番組になったのではないだろうか。
コントを見て笑って、ライブパフォーマンスにうっとりした後に、最終的には「ミュージシャンとしてすごいだけじゃなくてお笑いのセンスまであるのか…」という感嘆とも嫉妬とも言えそうな感情が湧き上がってくる「藤井風テレビ」。新しいスターの誕生の瞬間を目撃できる、とても貴重な企画だった。