伊藤沙莉、“小さな幸せ”は食後の家族団らんの時間「私は家族が生きがいなんです」

仲野太賀と伊藤沙莉 (C)2022 Disney & NHK Enterprises, Inc.

仲野「すごく視野が広がったような気がしました」


――自分にとって運命的な出会いだと感じた作品はありますか?

仲野:中学生の頃から映画は好きでよく見ていたんですけど、いわゆるミニシアター系の作品には触れたことがなかったんです。最初に触れたのは「リアリズムの宿」(山下敦弘監督)。知り合いから勧められて見たんですけどすごく衝撃的でした。あのスローテンポというか淡々とした中で旨味がぎっしり詰まったような作品。

あの映画と出会ったことで邦画やミニシアター系の作品の面白さに気付いたし、ヨーロッパの映画とかも見るようになりました。それこそTSUTAYA通いをしていましたね。そういう入口があっていろんな映画に触れて来られたから今の自分があるのかなって。すごく視野が広がったような気がしました。

伊藤:私の中の永遠のヒーローはジム・キャリー。小さい頃から彼の作品に触れることがとにかく多かったんです。友達のお父さんが洋画好きで、家に洋画コーナーがあるぐらいいろんな作品がそろっていて、その時に見たジム・キャリーの「ふたりの男とひとりの女」という作品がすごく面白いんですよ。笑えるのに、笑える人をずっと見ていると泣けてくる。必死に生きることが滑稽に見えてくるような構成がすごく好きで、今でも定期的に見ています。

それに「ふたりの男とひとりの女」は主人公が二重人格なんです。主人格ともう1人の人格がいて2人とも同じ女の人を好きになっちゃう。そして、女性も2人のことを魅力的に思ってしまうという設定。謎の三角関係の話なんですけど、この作品を見たことがきっかけで二重人格ものに対する憧れが強くなったんです。
   
仲野:あ、そうなるんだ。

伊藤:そうなるんですよ。憧れを抱くようになって小学生のつたない感じですけど、脚本帳のようなものを書くようになったんです。

仲野:すごいね。

伊藤:ドラマ「女王の教室」(2005年、日本テレビ系)の時に授業のシーンで使う小道具のノートが配られたんですけど、それをもらって1冊分まるまる使ってずっと二重人格ものを書いていました。二重人格に興味を持ったことで人間って面白いなと感じましたし、後にお芝居をすることも楽しくなっていきました。 

仲野:エピソードが強くていいなぁ(笑)。

伊藤:ありがとうございます(笑)。

伊藤「私は家族が生きがいなんです」


――ドラマ「拾われた男」は笑いあり、涙ありのヒューマンドラマということで見終わった後に「明日も頑張ってみよう!」という気持ちになりますが、お二人にとっての“小さな幸せ”は? 

仲野:やばいな。これもネタが弱いかも…。

伊藤:これは、私もやばいです(笑)。

仲野:映画館に行くことぐらいしか趣味がないんです。ジャンルを問わず色々な映画を見るんですが、素晴らしい映画に出会うとそれだけで映画館を出た後の景色が変わってくるし、明日も頑張ろうという気持ちにもなれる。たったの2時間だけど、自分の中でこういう気持ちを抱えていたんだなっていう発見や自分との答え合わせになる瞬間もあって、映画を通して人生を豊かにしています。

伊藤:私は家族が生きがいなんです。たまに実家に帰って家族みんなでご飯を食べるんですけど、必ず食後にお母さんが「お茶をしよう」って言うんです。そのお茶の時間は別に何を話すというわけではなく、みんなでお茶やコーヒーを飲みながら誰からともなく「この前こんなことがあってさ」みたいな感じで、ただただおしゃべりをするんです。その時間はとても幸せですね。


◆取材・文=月山武桜