上田誠氏、ターニングポイントは「ヨーロッパ企画の『サマータイムマシン・ブルース』初演」

「四畳半タイムマシンブルース」脚本の上田誠氏にインタビューを行った(C)2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会

2010年にTVアニメ化された森見登美彦氏による小説「四畳半神話大系」と、舞台で4度公演され、実写映画化もされた上田誠氏の戯曲「サマータイムマシン・ブルース」が“悪魔的融合”を遂げて誕生した「四畳半タイムマシンブルース」がアニメ化。9月30日(金)より3週間限定で全国公開され、ディズニープラスにて、9月14日から配信限定エピソードを含む全6話が順次独占配信される。このほど、TVアニメ「四畳半神話大系」にも参加しており、本作でも脚本を担当しているヨーロッパ企画の代表・上田誠氏にインタビューを実施。時間SFものの魅力や個人的に好きなキャラクター、演劇にのめり込んでいた大学時代の思い出と自身のターニングポイントなどを語ってもらった。

本作の舞台は、灼熱の京都。壊れたクーラーのリモコンを巡り、大学生たちが突如出現したタイムマシンで昨日と今日を右往左往する様がコミカルに描かれる。

混ぜ方さえ失敗しなければ最高の掛け算になるだろう

――劇場公開と配信が近付いてきた現在の心境をお聞かせください。

今回の作品は相当面白いんじゃないかなと思っているんですよ。もともと「四畳半神話大系」は素晴らしく面白いですし「サマータイムマシン・ブルース」も自分が作った作品の中では再演を繰り返したりして長らく練り上げてきた作品。

プロット的にも強度があると思っていて、その2つの混ぜ方さえ失敗しなければ最高の掛け算になるだろうなと。それを森見さんが見事にうまく小説にされているなという印象。アニメも手練れのスタッフの皆さんが面白い作品に仕上げてくださいました。

――タイムリープものはクセになる面白さがありますよね。

そうですよね。「四畳半タイムマシンブルース」は、ほとばしる青春の躍動と緻密なパズルが同居しているなと思います。今回は脚本として参加していてなかなか冷静に見られないところもありますけど自信がある作品です。

――アニメ化するにあたって、原作者の森見登美彦さんといろいろ話し合ったと伺っていますが具体的にはどんなお話を?

森見さんとは日頃から何となくお会いすることが多いんです。年末には必ず万城目学さんが主催してくださる形で忘年会をやっていますし、僕の劇団の公演も見に来てくださったり。仕事をご一緒した時にも話をすることがあるので、どれが打ち合わせなのかはよく分からないんです。

森見さんが「四畳半タイムマシンブルース」を書く時には編集担当の方からご連絡頂いて、しっかりとした手順で進んでいきましたし、アニメ化する時もアニメチームから正式に脚本の依頼を頂いて。そんなふうに仕事としてのプロセスは踏みつつも、仕事じゃない時にいろいろ話したことを踏まえた上で小説や今回の脚本が出来上がったという感覚です。

小説が出来てアニメ化になるプロセスというのはお互いにあうんの呼吸というか、森見さんも僕も「これでいいです」という感じでスムーズに決まったと思います。

――今作の脚本を書く上で意識した点はありますか?

登場人物たちが下鴨幽水荘という狭くてクローズドな場所からほとんど出ないんですよ。もちろん銭湯に行ったりして外に出ることもあるんですけど、結構な時間を下鴨幽水荘で過ごす。「四畳半神話大系」の記憶を掘り起こしてみて、そんなに広いアパートではなかったよなって。そこに10人ぐらいが集まるシチュエーションって成立するのかなと。

大体僕が書く群像劇を映像化する時は人のレイアウトに苦労することが多いんです。廊下っぽいスペースに10人いて、これをどうやって並べるのかとか。今回も暑い中、狭い空間に10人ぐらいが集まって「あ~だ、こ~だ」言いながら動き回るんですけど、それが面白く絵作りされていて楽しかったですね。

小難しい話ではあるんですけど心置きなく書いた

――複雑な時系列は、ちょっと油断すると分からなくなりそうですね。

アニメの世界において、時間ものやタイムリープものに対するお客さんのリテラシーがものすごく上がってきていると思うんです。20年前とかは全然はやっていなかったんですけど、今は「パラレルワールド」や「世界線」という言葉が普通に使われるようになったんですよね。いい意味で、もともとハードな領域だった時間SFものがいわゆるマニアだけではなく一般のお客さんたちにも浸透してきているのかなと思っています。

だから、小難しい話ではあるんですけど心置きなく書いた感覚はありますね。アニメが好きで、森見作品や時間SFものに興味がある方ってそれなりにいらっしゃると思うんですよ。そういう人にはたまらない作品ですし、そんなお客さんたちができるだけたくさんいてくれたらいいですね。