<メイドインアビス最終話>原作をなぞるだけでないアニメ化の良さを実感 アビスへの憧れは止まらない

2022/09/29 15:13 配信

アニメ レビュー

第12話「黄金」が放送(C)つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

多くの作品が放送された夏クールアニメの中でも、群を抜いた注目度で視聴者の話題をさらっていた「メイドインアビス 烈日の黄金郷」(TOKYO MXほか)が、9月28日放送の第12話「黄金」で最終回を迎えた。1時間スペシャルとなった最終話では、ここまで螺旋のように紡いできた過去と現在の出来事、第2期全編を通して描かれてきた価値というテーマの全てが収束し、“永遠の揺かご”成れ果て村はアビスへと還っていった。

映像と音楽。アニメ化の良さを再認識させてくれた傑作


本作はまだ小さな少女(リコ)を主人公にしながらも、多発するショッキングな描写や胸をえぐるドラマ性により、観る人を選ぶ作品ではある。しかし、アニメだからこそできる表現、安易に感動とは言えない激しい感情移入を呼ぶ物語は多くのファンを獲得し、魅了してきた。最終話はその極地となり、消えていく成れ果て村の全ての命、命という価値を食らい火にくべるファプタの姿、罪から解放されたヴエコの安息は、心に強い爪痕を刻むドラマだったと言えるだろう。

難解な部分もある原作をほぐしながらまとめた巧みな原作改変も見事だった。アニメオンリーでの完成度の高さはもちろんのこと、セリフ1つ1つも丁寧に拾い、作品のテーマ性を大事に仕上げられた今作は、原作ファンにとってもコミックをなぞるだけではないアニメ化の良さを実感できる作品になったはずだ。また、世界観を掘り起こす美術、作画の映像美には第1期の頃から定評があるが、Kevin Penkinによる映像に寄り添う美しい劇伴も物語を記憶に染み込ませる重要な役目を果たし、映像と並ぶ音楽による感動を改めて教えてくれるものだった。

ヴエコが背負った罪と価値

ヴエコ(C)つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

全編目の離せない展開となった最終話だが、あえて一番の注目シーンを挙げるとすればヴエコとファプタの邂逅になる。ヴエコにとって、自分が生きていることは大きな罪だった。イルミューイの大切な赤子を食べることで生きながらえ、何1つ決断できずにいた自分を罰してほしいと思い続けてきた。しかし、イルミューイにとって母という温もりを教えてくれたヴエコはかけがえのない存在であり、体(村)の奥に大切に隠し、自分の全ての価値を注いだファプタにもヴエコとの記憶だけは渡したくなかったのだ。

生きることはヴエコにとっての罪。それは同時にイルミューイにとっての価値であり、ファプタにとってのヴエコは、苦しみしかないと思っていた母に幸せを与えてくれた存在だった。価値は第2期を通して描かれてきた今回の中心テーマであり、母の解放という役目を終え、ヴエコを見送ったファプタは与えられた価値ではなく、自分自身で価値を見つけることを決意した。

余談ではあるが、第12話のエピソードは原作コミックスでいうと第10巻にあたるものだ。そのカバーにはトコシエソウの花畑で、満面の笑顔で弾むファプタの姿が描かれている。映像でわずかにインサートされたが、イルミューイもガンジャと共にあったとき、このトコシエソウが咲き乱れる光景にはしゃぎ回っていた。カバーに描かれたファプタの幸せそうな笑顔こそ、イルミューイとヴエコが望んだ彼女の未来なのだろう。原作未読の方にはこのイラストだけでも見てもらいたいところだ。