目の前に起こる出来事や今感じている想いを、ときに優しくときに鋭い言葉で、歌い届けるシンガー・ソングライター、高橋優。デビュー10周年となった2020年にリリースした前作より2年ぶりとなる8枚目のアルバム『ReLOVE & RePEACE』が完成した。
作品の冒頭を飾る「あいのうた」は、アコースティックギターをかき鳴らしながら噛みつくような鋭さで、“大切な人が 目の前で殺されたら 神に祈るとか嘘でしょ? 僕なら怒り狂うだろう”と吠えるように歌う。およそタイトルからは想像しがたい、このビビッドで刺激的な曲から本作を始めたかったのだという。
「本作に限らずアルバムを出すときは、この曲から初めて聴いてくれる人に対しても、自己紹介になるような曲でスタートしたいと思っています。今、アルバムを曲順通りに聴いてくださる人がどれくらいいるかは分からないけど、この曲が最初にあることで、高橋優という人の表現方法の一番中核になるもの、言葉の選び方も含めて『僕はこういうものです』と言えるのが『あいのうた』です。
それ以降の曲順は、自分で並べて聴いてみたり、スタッフにアンケートも取りながら考えました。最近は車の運転が好きなので、車内で何度も流して『この方が気持ちいいな』と思えるものに組み替えたりもしました。そうやって僕が考えた曲順に対して、聴いてくれたスタッフは長い文章でコメントをくれたりもするんです。いい案だなと思えばそれを採用するけど、結局のところは自分の好きな順番にしちゃうことが多いですね(笑)」
マスク着用の是非、ソーシャルディスタンス、SNSの炎上を思わせる社会性の高いトピックや不条理への怒りを熱量高く発散しているように聴こえる「あいのうた」。だが、実は、とても個人的な感情から歌詞が生まれたというから、アーティストの発想力には脱帽するほかない。
「『あいのうた』を作っていたとき、ちょうど曲作りのルーティーンを自分に課していたんです。鼻歌で歌ったメロディーをパソコンに入れて、曲にしていく…みたいな作業をあえて、何度も繰り返し行っていたんです。
でも、それを続けていたら、『うわ~、またメロディーから作るのか』とだんだんうんざりしてきて(笑)。ついには、『ルーティーンなんてもういい、即興で作っちゃえ!』とギターを片手に弾き出してみたんですよ。すると、あっという間に歌詞の一節の『世界平和を祈って唄うような柄ではないので』が出てきました。
今年は、そういうことを考える年でもあるなと思ったし、自分自身に対して、そんなこと言っちゃだめじゃないかという気持ちもあったので、きちんと自分と向き合って1つの曲にしたいと思ったんです」
自分との約束を破るかたちで生まれた『あいのうた』を作りながら、ある意味で原点回帰するような気持ちにもなったという。
「僕は、いろんなことを忘れちゃうんですけど、デビュー当時は即興で歌うことをやっていたんですよね。『福笑い』も、そんな感じでほぼ即興で作りました。
でも、デビューして13年目になり、立派なことをやらなきゃみたいに思うんでしょうね。だから、ルーティーンで曲作りをしてみようと思ったのかもしれないけど、朝起きる時間を決めて、曲作りは午前中にやろうと予定を立てても、そんなことすらちゃんとできないんですよ(苦笑)。だって、この曲ができたのは、夕方でしたから(笑)。
自分で作った決まり事の鎖を、結局は自分で解いた。決まり事の中から生まれる曲もあるけど、これまでも何だかんだ即興で作っていた自分がいたんだなと。そうしたことを思い出したし、それを1曲目にしたのも僕にとっては意識的なものでもあるんです」
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