――お二人が考える「優れたカバー」とはどういったものでしょうか?
マキタ:番組の中でも言いましたけど、僕はやっぱりその人なりの解釈が曲の中に入っているカバー、もしくはそれを見つけられるカバーが良いものだと思いますね。企画先行で、中にはあまり脈絡が感じられないものもあるじゃないですか。それも当番組では決して否定することは無いんです。
つまり、いい曲なんだけど「ファンだけに愛される曲」で終わってしまうことも一方ではあるので、それを開放してあげる役割のアーティストもいると思うんです。「文脈を切り離してもっと違う層に届ける」という役割では、May J.さんはOKです(笑)。
ただ、一方では(企画先行のカバーを)認めつつ肯定しつつも、僕は己の声であるとか、培ってきたアーティスト性とか、シンガーの力量とか、そういったものが曲と対等に戦い合って、名勝負しているカバーが良いと思ってます。やっぱり“カーバーイーツ”(編注:優れたカバーを届けていく配達人)としては、そういった方に活躍してもらわないと。
スージー:私も単なるカラオケじゃなくて、自分の芸になっている、自分に引き寄せているカバーが好きですね。私が今日かけたのはそういう曲たちでしたので。原曲のことも忘れるくらい自分の世界に引き込んでいるのが良いカバーだと思います。
――2000年代以降は「トリビュートアルバム」という形で、特定のアーティストの曲をいろんな方がカバーすることも定番化してきた感がありますが、お二人はどのように捉えていますか?
スージー:私はあの辺あんまりノってないんですよ。トリビュートする側のアーティストを自分が好きだったらわかるんだけど、さっきも言った通り「芸」になってないものが多いんじゃないかなと。正直「当たり」が少ないかなと思いますね。
マキタ:「芸」っていうとちょっと分かりにくいかもしれないですけど、僕もやっぱり「芸」を感じるかどうかで思うところがありますね。その人の器量というか、やってきたこと、つまりは己の芸風をよく理解していないと、なかなか出来ないものもあると思うんですよね。
トリビュートもいろいろあると思いますけど、曲の構造自体を変えてしまっているものもあるじゃないですか。そういう敬意の表し方みたいなものも見たいですよね。逆に原曲に忠実に勝負しているカバーもあるし。そういうところでも測りたいですよね。
例えばPUNPEEが加山雄三さんの「お嫁においで」をカバーしているんですけど、あれは完全にヒップホップ的な手法でやってるんですよ。今のアーティストはそういうこともやるじゃないですか。構造ごと変えてしまうという。まあいろいろなんで、丁寧に聞いてみるとわかると思いますね。
――番組が5周年を迎えますが、ここまで番組が続いてきた秘訣と、この5年でご自身や世の中の状況で変わったなと感じることは何ですか?
マキタ:この5年で言うと…、スージーさんが会社辞めたことじゃないですか?(笑) これすごい大きなことだと思いますよ。
スージー:辞めましたね~。税制上も大きな変化ですね(笑)。あとはこの番組でやっているような、音楽をネタとして見るというか、俯瞰して見るようなことがわりと普及してきたと思います。過去の音源をDIGして、再発見するという。なので、この5年間で一番大きいな変化はサブスクの流れだと思いますね。
若者を中心に、(昔の曲を)振り返ったり、ネタ化して素材として見ていくことが一般化したのは予想外の展開でした。だからこそ、ソムリエ的な存在が求められる時代になったのも番組的には追い風というか。一回終わってはいますけど(笑)、状況は良くなってきてるんじゃないかと思います。
マキタ:僕も似てるかな。スージーさんがよく、「暗闇に向かって投球練習」って言ってましたけど、ブログとかで音楽分析を発表し始めたのが10年前くらいの頃で。僕もそのくらいの年からJ-POPを分析するネタが注目されるようになるんです。
ネットでは当時パクリを指摘するような流れもありましたけど、まだ表でこういう音楽分析をやるっていう時代ではなかったんですよね。お互いそういう中で先鞭をつけつつやってたんですけど、本当に今隔世の感があって。YouTubeとかでも音楽分析動画ってメチャクチャ多いですし。
スージー:あ~、多いですね。増えましたね~。
マキタ:地上波の番組でも、それこそ「関ジャム 完全燃SHOW」(テレビ朝日系)だったり、NHKでも星野源さんが番組やってたり(編注:「星野源のおんがくこうろん」)、そういうのが当たり前になっていて。なので「音楽分析大航海時代」というか、渋滞してるくらい今流行っていると思うんですよ。
スージー:我々がマゼランとコロンブスですよ(笑)。
マキタ:僕らはちょっと80年代に寄せた形でやってたこともありますけど、こういう時代になったという必然も感じるし、行くとこまで行ったらどんなことになるんだろうって。また、それ以降に影響を受けているアーティストたちが絶対出てきているはずなんで。僕は肯定的に捉えていますね。
――ついに時代が番組に追いついたという感じですね
スージー:しかしその間、ちょっと番組が続いていなかった時期があるという(笑)。
マキタ:僕らは人力がかなり酷いですけどね(笑)。
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