令和4年。今は、わたしが頑張っている。
「サンタさんに手紙書いたらどうですか?」わたしは娘に聞いた。毎年、娘が欲しいものを調査するのに一苦労である。
「書かない」
「書かないと、あなた、サンタさんが何を持ってきたらいいかわからないと思うよ」
「サンタさんは、わかってるから。書かなくても。心で思ってると」
お願いだから書いてください。
「じゃあ、ママには教えてくださいよ、何が欲しいの?」
「えー」
「わかった、あなたが欲しいものは、メイクの筆じゃない?」
「筆はいらない」
メイクに夢中の娘のことだから、いい筆が欲しいかと思いきや、そうではないようだ。買うところだった。やはり聞いておいてよかった。
「なにが欲しいんですか?」
えー、いいよ、じゃあみせてあげる、これ、とスマホでみせてくれた画像は、TSUBAKIのヘアマスクなるものであった。
「ヘアマスク?ヘアマスクって、なに?聞いたことない」
「ママ知らないの?フェイスマスクの髪の毛用みたいなもの。これ、ヤバいから。ツルツル」
「へー。いいんだね。確かに、良さそうだね。傷んだ髪もツルツルに。へー」
「それな!」娘が最近多用する、「それな!」とは激しく同意します、という意味であると想像している。
「あとね、マスカラのリムーバーで、すごいいいのがあって、それもサンタさんにお願いする」
「あ、そうなんですね。2つお願いするのね?」
「あと4つお願いする」
「え?」
「あのね、ママ。全部で6個、サンタさんは大丈夫だから」
いつ、そんな恐ろしい決まりが。
娘は続ける。
「前は、6個くれたから。今年も6個」
「だけど、それは、あなたが小さい時で、ノートとか小さなお人形とか、そういうのだから6個だったんじゃないの?」
「そう。だけど、6個は6個だから」と、娘は、何にしようかな、あと4個、カバンと靴と、帽子にしようかな、109に行けるのかな、サンタさん、と頭を悩ませている。
わたしは思わず口を挟んだ。
「ねえ」
「なにママ」
「勘弁してあげたら?」
「何が?」
「いや、もう、カバンも靴も、なんて、サンタさんも大変だから。勘弁してあげたらどうでしょう」
「大丈夫だよ、サンタさんは。」
「いや、大変ですよ。サンタさん回るのは、この家だけじゃないから。重いし、お金もね、サンタさんも大変だと思うから」
「は?」
「は?って何」
「やば」
「何が」
「何目線?」
サンタ目線ですよ、わたしがサンタですからね!
本当に、生意気な中学1年生。いらいらいら。
いけないいけない。こうなるとケンカ突入寸前。家族とのケンカは、なにしろ疲れる。仕事も手につかなくなるし、変な空気が漂って猫たちにも伝染していく。できるだけ、避けたい。
わたしは、ベッドに横になり、会話をやめ、心が落ち着く音楽でも聴こうかとスマホを取り出した。そして、最近お気に入りのローズの香りを枕元に垂らした。気分が落ち着くためなら、なんにだって手を出すわたしである。息を深く吸い、ローズの高価なエッセンシャルオイルの深くて甘い香りを鼻から全身に入れてみた。ふう。ひとやすみひとやすみ。
「ねえ、ママ」娘が優しい声色で話しかけてきた。
「なんですか」
「ママ、さっきは、イヤな言い方して、ごめんなさい」
最近、娘から先に謝ってくることもあるのだ。なんとも、複雑な気持ちではあるが心は溶けてゆく。
「いいよ、ママも。ごめんなさい。サンタさんの気持ち、ママにはわからないのに。余計なことを言ったと思います」
「ううん。ごめんなさい」
「いいの、いいよ、じゃあ仲直りのハグしようか」
「それは、やめとく」
「あ、そう」
「ママ、あのね」
「なに」
「ママからのクリスマスプレゼントは、靴とカバンにしようと思ってる」
「ママからも?クリスマスプレゼント?」
「ありがとう、ママ!」
勘弁してあげてください。2022年冬。
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