病によって開花した才能。芸術家にとってその真実がどれほど酷なものだっただろうか。
「私には分かるんです。このオブジェをどう刻み込んだら、命が与えられるか。刻むたびに作品の鼓動が聞こえてくる」という洋子は、それがなくなって作れなくなることを恐れた。そして、自身のマネジメントもする恋人が自分の“才能”を愛しているため、彼を失うのではとも恐れていた。彫刻作品に“命”を吹き込むことと、自分の“命”への究極の決断が迫られて悩む。
そんなとき、洋子が工房で倒れる姿を監視カメラで見ていたクイーンが駆け付けた。かつて大手ジュエリーメーカーのデザイナーで、人工ダイヤの研究もしていたことが同時に明かされたクイーン。研究は「私のすべてだった」が、裏社会の人間から命を狙われることになり、エースの整形手術と、オペナースとしての訓練を受けて、生き延びた。
洋子に処置をしたクイーンは、かつてエースに自分も「お前はすべてを失ってでも生きる価値はあるのか」と言われたことがあり、過去や名前も捨てて生きることを選んだ。そんなクイーンに洋子が「今のあなたは幸せ?」と聞くと、「全部なくしたけど、悪くないって思ってます」と答えた。
状況としては似ているかもしれないが、決めるのは自分だ。直後に再び倒れた洋子は、エースに「私は…生きて…いたいです」と答え、手術が行われた。
ただ、その答えが実は「今の私のまま」生きたいと願ったことが判明。エースは小脳腫瘍の一部のみ切除して、一時的に神経と視野の症状を回復させ、洋子は最期の作品を仕上げることができた。
“闇医者”にしかできない患者の意思の尊重でもあった。最期の作品と共に飾られた写真に写る車いすに乗った洋子の笑顔はまぶしかった。作品に命を吹き込み、彫刻家として自身の命をまっとうすることを決めた美しさだ。洋子を演じた美村は、葛藤や苦悩、彫刻家としての輝きやすさまじさを見事に表現した。
本作では美村のようにゲストの熱演にも魅了される。次回2月5日(日)放送の第5話には若年性アルツハイマーの患者として小島藤子、その夫で高橋光臣が出演する。
◆文=ザテレビジョンドラマ部
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