“読書”のように感じるのは、言葉の一つ一つを聞き逃したくないと思わせる会話劇が想像力をかき立てるせいもあるだろう。
作品のメイン画像に写っている家福の赤い愛車“サブ900”は、作品の重要なキーアイテムだ。愛車の中で行われる、家福と別の人間の会話劇こそ、物語の大筋につながっている。家福が妻・音と前夜の情事の最中に語り合った話を振り返るときも、チェーホフの戯曲「ワーニャ伯父さん」のセリフを覚えるため音の吹き込んだテープが延々と流れるのも、家福と高槻が男同士の秘めた過去を相手の目を真っすぐ見ながら打ち明け合うのもすべて“サブ900”の車内だ。
広島、東京、北海道、韓国など、美しい情景を走り抜けていく車。音の死後、車内の会話を黙って聞いている寡黙なドライバー・みさきの背負ってきた過去も衝撃的で、家福と関係する人物たちのキャラクターの濃さは話が進むにつれて深まっていく。家福はみさきと過ごすことで、自分が固く閉ざしてきた心の扉を開けて生きていこうとする。
主人公の家福が自身の心と向き合うのがテーマとしてあるからなのだろうか。見ている人も“心がどう感じるか”問い掛けられているような、自分の心との対話が随時求められる作品である。「ここが見どころ!盛り上がるところ!」と容易に分かりやすい派手で一方的なエンタメ作品では得られない、自分の持つ感性で“読む”ような体験が待っている。
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◆文=ザテレビジョンドラマ部
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