松本若菜が「しんどさ」から抜け出せたきっかけ/連載コラム【もっと!松の素】(最終回)

2023/09/12 17:00 配信

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松本若菜のフォトエッセイ「松の素」より撮影/西村康 スタイリング/後藤仁子 ヘアメイク/北原 果(kiki)

2022年、ドラマ「やんごとなき一族」(フジテレビ系)の演技で話題となり、その後も連続ドラマや映画で存在感を発揮している松本若菜。今年2月には自身初のフォトエッセイ「松の素」を上梓した。現在、ドラマ「18/40~ふたりなら夢も恋も~」(TBS系)にも出演中で、大河ドラマ「どうする家康」(NHK)の登場も控えている。そんな松本若菜が日々何を感じ、思っているか語る本連載。最終回では、たくさんの役を演じてきた松本が自分の演技の転機を語る。

みなさま、いよいよ最終回です!

早いもので、ドラマ「18/40〜ふたりなら夢も恋も〜」が最終回を迎えます。有栖と瞳子にはぜったいに幸せになってほしいと、薫(私が演じている役名です)も私も願っているのですが、果たして……! ぜひ見届けていただけたらと思います。

こうして自分が出演するドラマのことをお話しするたびに、ありがたいなぁと思うんです。30代前半のころ、女優をやめようとしたことがあったんですが、当時は名前のない役を演じることもありましたし、オンエアを見たら顔が映っていないなんていうことも多々あって(笑)。あのころは自分の出演したドラマの話ができるなんて、考えてもみなかったなぁ。

名前を覚えてもらえないまま、撮影が終わったこともありましたね。そんなことはどこの世界でもあることだと頭ではわかっていても、続くとしんどくなっちゃって。どうしてもね、思っちゃうんですよ。「私って女優として必要なのかな」って。「自分って何なんだろう?」みたいなことを、あのころはずっと考えていましたね。

あのころ、邪念だらけのお芝居でした

そんな状況から抜け出すきっかけをくれたのは、いろいろな方のお芝居でした。すごく素敵な表情だったり、想像もしなかったようなお芝居に出会って、思ったんです。自分が正解だと思ってやっていたお芝居は、完全に独りよがりだったんだって。それまでは、自分のためのお芝居をしていたんですよね。「私、こういう感情でやってます。見て!」みたいな。もう邪念だらけです(笑)。でも私が心打たれた方のお芝居は、そうじゃない。たぶん無心なんです。その役としてそこにいて、ことばを発している。他の方のお芝居を自分の中で解析して見るようになって、徐々に自分の独りよがりぶりに気づけた気がします。

映画「愚行録」でヨコハマ映画祭の助演女優賞をいただいたときには、助演という立場からも作品に貢献できることに気づけました。自分は助演としてずっとやっていこうと覚悟を決め、それ以来、作品全体のことを考えたうえで、自分の役はどうあるべきかを考えるようになりました。どうすれば主演の方がお芝居しやすいか、主演の方のお芝居を際立たせることができるのか。物語の軸となるのは、主人公の感情や行動ですから。

助演と主演、どちらも経験したから気づけたこと

そういった気づきがなければ、去年、ドラマ「復讐の未亡人」(テレビ東京系)で主演をさせていただいたときにも、自分のことしか考えられなかったかもしれません。助演としてずっとやってきたことで、周囲の方たちの気持ちがわかるようになったというか。みなさんがどうやったら現場にいやすいかなど、たくさん考えました。

撮影中は、周りの方たちにたくさん支えていただきました。私は主人公の密という女性を演じたのですが、会話のテンポをあえてずらしたんです。違和感を出したくて。それを共演者の方たちは、しっかり受け止めてくださるんですよ。「あぁ、私はこの人たちに支えてもらって主演ができているんだ」と、心から思いました。あの時間は、すごく贅沢な時間でしたね。

主演を経験させていただいてから、これまで以上に助演に対する気持ちも大きくなって。私ね、台本に書いてある出演者の名前を見て、「あ! この人とご一緒できる!」とうれしくなる方がいるんです。お名前を見ただけで、「うわっ! この役はこの方がされるんだ、めっちゃ最高だろうな!」と思わずにはいられない、信頼感というか、安心感というか。いつかは私もそんなふうに思われる人になりたいんです。台本を見て、「お! 松本だ」と思ってもらえるような。でもあと10年ください(笑)。道のりはまだまだ長い……!

長くなったのにはワケがある!

ここまで読んで、今回はちょっと話が長いなとお思いですか? お思いでしょう。でもすみません、まだもう少し続きます。だって今回が最終回だから! 自由に長々とお話しさせていただきました(笑)。

10回にわたりお届けしてきました、「もっと! 松の素」。いかがでしたでしょうか? いろんなことをお話ししてきましたが、私のことを100%理解してほしいという思いはなくて。「こういう人間もいるんだ」「こんな考え方もあるのね」と知ってもらえたらいいなと。誰の考えが正しいとか、間違っているとか、そんなふうに決めてしまうと苦しくなるけれど、「いろんな考えがあっていい」と自然に受け入れられたらラクになるじゃないですか。ヒントといったらおこがましいけど、この連載を読んで、そんなふうにちょっとでも思ってもらえたらうれしいなと思います。

長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました! またどこかでお目にかかれる日を楽しみにしています。もしかして……、「松の素2」とか!? 

取材・文=恩田貴子

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