androp内澤崇仁、映画「アナログ」で本格的劇伴に初挑戦「細かいところまで妥協せずに作り上げるという信念。それに尽きるのかなと思います」

2023/10/04 12:00 配信

ドラマ 映画 インタビュー

自分たちのバンドの曲を思い返して「あれは歌詞で説明しすぎてた」「あそこは歌詞に頼ってたんだな」ということも思い当たりました


    映画「アナログ」より         (C)2023「アナログ」製作委員会(C)T.NGON Co., Ltd.


――映画を拝見したところ、全体的にゆったりと静かですし、「セリフを際立たせたいんだろうな」と思われるシーンが多くて、その邪魔にならないよう劇伴を作るというのはかなり緻密な計算を必要としたのではないかと思うのですが…。

そこは相当難しかったですね! 普段バンドでやってる音楽は、頭から決まったテンポでいくものがほとんどですけど、今回はセリフを生かすために曲のテンポを変える瞬間があったりだとか、楽器を減らす瞬間があったりだとか、ブレイクさせる瞬間があったりだとか。で、ブレイクさせるけれどもまた違和感なく始まるっていうような…そういうものをいろいろと試行錯誤して、勉強になりました。

ある程度、曲のモチーフと曲調が決まったらあとは画に当てていくのですが、尺をどうするか、BPMはどうか、強弱をどうするか――と、考えることは山ほどあります。それを経て調整ができたら実際レコーディングして音を当ててみますが、何か違うなとなったらもう1回録り直して…というのをずっと延々繰り返す。監督だけじゃなく、全てのセクションの皆さんが納得するまで。職人同士の落としどころを見付けるっていうか…映画が「総合芸術」と呼ばれるのはまさにこういうことなんだろうなと。

――音楽が飛行機の音によってかき消されたりとか、曲に波の音が重なって調和するみたいな、劇伴ならではの効果は、環境音楽に造詣の深い内澤さんの素養にも通じるものだったのではないでしょうか?

ああ、自分的にはそこまで意識はしてなかったですけど。ただ、一つ一つの音楽を作るにあたっては効果音を担当される方やセリフを整音される方たちに「このシーンは他に何の音が入るんですか?」っていうのをヒアリングしてメモって、それを頭でイメージしながら音楽を作るっていう作業はしていました。だからそれらの音量のバランスに関しては、監督の意向を汲みつつも、各所――セリフを担当される方、効果音を担当される方、皆さんと話し合って、詰めていったという形で。劇伴だけでは成立しない。

そうやって微調整を重ねに重ねますから、本当に途方もない作業で(苦笑)、ギリギリまで終わりませんでしたね。(8月28日の)完成披露試写会の直前まで、ほんのちょっとの違いを修正するということを繰り返していて…本当に妥協なき環境でした。

――映画が『アナログ』というだけあって、サントラ全体を通して、アナログな音色にこだわりを感じる仕上がりになっていますよね。ギターのアルペジオ一つ取っても、手触りとか質感といったものが温度を伴って伝わってきました。

    映画「アナログ」より         (C)2023「アナログ」製作委員会(C)T.NGON Co., Ltd.


ありがとうございます、そこはめっちゃ意識しました。木の“鳴り”っていうのもすごく大事にしましたし、音数も少なかったので、空気感みたいなものまで音楽に入れることができたんじゃないかなと思います。今回は劇中にクラシックの曲が入ってるじゃないですか。だからそことあまり離れないものがいいんじゃないかというのもありつつ、バンド出身の僕にしかできないものを、というところも考えながらやってました。

例えば、曲名でいうと『木曜の彼女』シリーズは、シェイカーなどが入った軽快な曲調になっていますが、あの辺は基本的に二人が歩いてるシーンだったりするので、楽器を使って前に進んでる感じを出すことを意識したんです。今までのバンド活動において、「これをやったら進んでる感じが出る」とか逆に「とどまってる感じになる」っていうノウハウがあったので、その経験にもとづいて音や奏法を選んだ感じです。

また、歌詞がないインストだけで表現を完了させるというのも普段の曲作りとは手順が違うので、発見は多かったですね。自分たちのバンドの曲を思い返して「あれは歌詞で説明し過ぎていた」「あそこは歌詞に頼ってたんだな」ということも思い当たりましたし。楽器だけでここまで表現できるんだっていうことを、新たに知った気がします。

   映画「アナログ」より         (C)2023「アナログ」製作委員会(C)T.NGON Co., Ltd.