松岡茉優&窪田正孝W主演「愛にイナズマ」理不尽に抗う人間らしさを描き続けた石井裕也監督作品の魅力に迫る

2023/11/22 18:00 配信

映画 コラム

石井裕也監督(C)2023「愛にイナズマ」製作委員会

10月27日より公開中の映画「愛にイナズマ」。松岡茉優窪田正孝ら豪華キャストが織りなす、笑いと感涙の痛快エンタテインメント作品で、大切な夢を奪われた女性が、運命的に出会った恋人とどうしようもないダメダメな家族の力を借りて、嘘と誤魔化しに満ちた社会に反撃を仕掛ける痛快な物語。そんな本作のメガホンを取ったのは、石井裕也監督。2013年公開の「舟を編む」において、史上最年少(当時30歳)でアカデミー賞外国語映画部門日本代表作品に選出されるなど、国内外で活躍を続ける新進気鋭の若手監督だ。本作でも、どこか生々しく感情移入してしまうようなストーリー展開や設定で、“石井ワールド”を体現。今回はいち早く試写を見たWEBザテレビジョン編集部が「愛にイナズマ」の見どころを解説すると共に、これまでの石井監督作品の魅力について迫る。

「愛にイナズマ」は…「コロナ禍でマスクの下に隠す本音やウソを“ひっぺがえしたい”」作品


「愛にイナズマ」は、コロナウイルスが蔓延する時代からアフターコロナの時代を描いた作品である。石井監督は、コロナ渦で人々がマスクの下に隠す本音や嘘を“ひっぺがしたい”という想いで本作を手掛けた。

主人公の折村花子(松岡茉優)はやっとの想いでデビューが決まった新人映画監督。家賃も滞納するほどお金がない中、日々映画作りに奔走するのだが、助監督(三浦貴大)にパワハラやセクハラを受け、終いにはプロデューサー(MEGUMI)にも騙され監督デビューの話も奪われてしまう。

そんな中バーで偶然出会った正夫(窪田正孝)に“夢を諦めるのか”と感化され、長年疎遠だった家族の姿を映画にし「見返してやる」と誓う。そして実家に戻り、父親の治(佐藤浩市)、長男・誠一(池松壮亮)、次男・雄二(若葉竜也)というバラバラな状態の家族と向き合っていく。

久々に家族とともに過ごしながら、撮影を続ける花子。すると次第に会話が生まれ、修復不可能かと思われた関係が変わり始める。中でも治に秘められた“ある秘密”が明らかにるシーンでは、涙が止まらない感動が押し寄せてくる――。

映画「愛にイナズマ」より(C)2023「愛にイナズマ」製作委員会


実力派揃いの役者同士による“芝居の殴り合い”に注目


本作の見どころと言えば、脚本はもちろんのこと、何といっても“出演者の演技合戦”だろう。主演の松岡は、自分の意思に正直で、生きづらい世の中を懸命に真っすぐ生きようとする花子を見事に演じている。「普通」を装うために助監督たちに怒りや悲しみの部分をひた隠しにするも、バーで出会った正夫や自分の家族には正直にその感情をぶつける姿は、とても印象的だ。

一方で“空気の読めない変わった男”を表現しつつ、花子を応援する“正夫”こと窪田の演技にも注目。夢を諦めようとする花子に対し、次々と飛び出すセリフで“激突”していく窪田。役柄が憑依した松岡と窪田の姿は、いわゆる“芝居の殴り合い”と形容すべきほど圧巻だった。

また父親の治役・佐藤は不器用ながら子どもたちを見守り、長男の誠一を演じた石井作品常連の池松は家族に対する心境の変化を丁寧に、次男の雄二役・若葉は“真面目な聖職者”という自分の殻を脱していく姿を見事に演じ脇を固めた。

現代社会で誰しもが抱える理不尽さ、そしてそんな中でも信念を持ち前に進んでいく姿や人との繋がりのあたたかさに気づかされる本作。石井監督は映画を通じて、世の中の面白さを我々に見せてくれている。