[心臓に難病を抱えた娘のために、町工場のお父さんが医療機器を開発した実話]と聞いて、何としてもこの実話の映画化は自分でやり遂げたいと思いました。
僕が最も感動したのは、この医療機器が今も世界中で多くの命を救い続けているという点です。このご家族への取材を重ねていくうちに、誰かが亡くなって悲しいという話ではなく、誰かの命が救われていくことでの感動を届けたいという思いが高まっていきました。
この医療機器が生み出したたくさんの幸せを、皆さまにお届けできればと願っています。
子供が難病を持って生まれたとき、親や家族の前には二種類の選択がある。仕方のない運命だとあきらめるか、あるいは運命に逆らい、神の領域にも踏み込んで闘うか。ごく稀にだが、運命に抗った親たちが驚くほどの高みへと上っていくことがある。「不運だ」と言われていた子が遥かなところへ導いて行ったのだ。それは奇跡ではなく、愛したことへの報酬だ。
これから紹介するのは、心臓に難病を抱えた娘とその家族の22年間の記録である。両親は医療に無縁の素人だった。だが、彼らは人工心臓を自分たちで製作しようと考える。彼らが作り上げた医療機器は娘の命を救うものではなかったが、代わりに約16万人の人々の命を救った。そして、人間の愛は不可能を覆す力を秘めていることを証明した。
私たちの命は常に誰かの血の滲む努力によって支えられている。世界中を巻き込んだ新型コロナウイルスのパンデミックを経験した私たちにはその事実は痛いほど突き刺さる常識になったと思います。
この映画は2020年以前より企画をスタートしました。数多くの企画が未曽有の危機を前にして立ち消えていく中、この映画だけは絶対に届けなければいけない、16万人の命を救ったこの家族の様に絶対にあきらめてはいけないという一心で映像化に至りました。
ただ娘の命を救いたかった――。「ディア・ファミリー」が描く“ある家族の願い”は切実で、純粋で、挑戦的。この映画は決して過去の出来事ではなく、今の私たちに繋がる物語です。観終わった時に生を実感する。月川監督と共にまた新たな地平へと辿り着けた気がします。
弊社のドラマでも数多くその原作を映像化させていただいているノンフィクション作家・清武英利氏が筒井家の御取材をされていることを聞き、夢を諦めなかった家族の奇跡が世界中の人々の命を救う奇跡に昇華するという実話に深く胸を打たれたのが約5年前のこと。
時を同じくして、このお話の映画化を準備されていた東宝さんとタッグを組むことが出来、そこからじっくりと大切に時間をかけ、ご家族や関係者の方々に沢山お話も伺わせていただき脚本開発を進めました。
奇しくもコロナ禍を経たことで生や死を否応なしに身近に感じ、考える時間を経たこと、また医療に従事される方々の献身性やその存在の尊さに直に触れることが出来たことで何度も企画を見つめ直すきっかけとなりました。
この作品が携える家族の固い絆と大きな愛、そして何が起ころうとも屈せずに前を向いて生きることの逞しさを多くの人に感じていただきたく思います。