次の練習でも蓮は厳しい指摘をやめず、他の団員たちは萎縮してしまい、それが音にも影響が出てしまっている。そういうやり取りを見て、フルートの瑠李が蓮に「熱心ね」と声をかけた。責められたと思った蓮は「何か間違ってますか?」と聞き返すが、瑠李は「私もストレスが溜まる演奏は嫌い。猛者と切磋琢磨したいならプロオケに行きなさいよ。なんで瀕死の晴見フィルに来たわけ? 理由は一つでしょ。何かが起こりそうだから」と、蓮の気持ちも理解しつつ、大切なのは演奏技術だけじゃないということを彼女なりの表現で伝えた。
コンサートのチラシを作り、古谷や大輝たちがいろんなところに貼っていくが、そのチラシを市長の白石が見たことで新たな問題が発生。団員が練習している時に響がやってきて、コンサートを行う予定の2月4日はホール閉館に伴う施設点検のため、中ホールが使えなくなったことを伝えた。
帰宅後、俊平は「正直、すっごく腹が立ってる」と珍しく怒りの感情を込めて響に伝えた。しかし、それは響に対しての怒りではなく、「伝えにくいことを君に伝えさせる君の上司に」と、市のやり方に対しての憤りだった。
コンサートが出来る場所を探すために自転車でいろんなところを走ってみた俊平は、晴見市の”道の駅”にやってきた。そこで毎月一回、第一日曜日に朝市が開催され、人でにぎわうと聞き、朝市が開催される日に演奏をすることを思いついた。
中ホールが使えなくなってしまったが、なんとかコンサートは開催できそうな感じになり、俊平はもう一つの問題も解決しようと大輝と蓮それぞれに会いに行った。「ちょっとした実験です」と言って大輝に手書きの楽譜を渡した。そして蓮にも同じ提案をした。
そして当日、多くの人でにぎわう朝市の会場に椅子を並べ、「田園」の演奏が始まった。のどかな朝の雰囲気に「田園」はぴったりの曲。第一楽章が終わったところで、俊平は朝市のお客さんに向かって話を始めた。この曲がベートーベンの交響曲「田園」であること、第一楽章のテーマ、そして次に演奏する第二楽章のテーマも。
この第二楽章が俊平の考えた「ちょっとした実験」だった。「本来ならオーケストラによる美しい演奏なんですが、今、うちのオケは緊急事態でして、2人の有望な若者がケンカ中なんです」と赤裸々に伝えた。その2人とはもちろん蓮と大輝のこと。「今日はベートーベン先生のお力を借りて、仲直りか、大いなる破綻か、第二楽章を2人きりで演奏していただこうと思います」と見ている人たちに伝えた。
本来なら第二楽章にトランペットは入ってないが、俊平がアレンジしてトランペットのパートにした。蓮に提案した時、ピッチが悪いトランペットとは演奏できないと拒否されたが、「ピッチはオーケストラでの共通言語だけど、2人きりなら君がトランペットに合わせるという選択肢もある」と、蓮の高い演奏力を見込んでのお願いをした。
「これは出来ない」「あれは出来ない」と言うのではなく、「こうすればやれるんじゃないか」というのを提案できるところが、マエストロと呼ばれるゆえんだと言える。第3話の中だけでも、俊平の言葉によって団員たちの気持ちが変わったり、雰囲気が変わったりする場面を多く見ることができた。
「一番大事なのは心から歌うことです。君のトランペットには優しい歌心がある。歌うトランペットには誰もかないません」
これは俊平が大輝にかけた言葉。「ピッチが悪い」とは言わず、長所を伝えて、伸び伸びと演奏をしてもらい、その魅力を発揮させる。
第二楽章は大成功。その後、雨で演奏は中断されてしまうが、ゲリラコンサートは成功となり、オケ内の不協和音問題も見事解決してみせた。廃団になることは決定事項だが、俊平によってまだまだ変化しそうな部分も多そうだ。
◆文=ザテレビジョンドラマ部
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