海面がキラキラ輝くほどの密度で、“イール”が行動を起こしていた。彼らは船を囲み、驚くほどのパワーで船を流氷に叩きつける。船がドリフトするように海を横滑りしていくさまは、見えざる大きな手を連想してしまう。
そして大きな流氷に衝突した船を、今度は別の大小の流氷が囲む。水面は“イール”の存在を示す光にあふれ、明らかに人類の攻撃行動が彼らの怒りを買ったことを示していた。プールのなかにいた“イール”が死ぬ寸前に発した悲鳴は、海の底まで届いていたのだ。
絶体絶命の危機に、シグルは最後の策を明かす。“イール”に対して、「我々はメッセージを理解した」「子孫と同じように、イールと繋がっている」というメッセージを伝えようというのだ。サマンサたちによる音波交信と、亡くなったルーサーの体に“イール”を注入して細胞的に結びつけたあと“イール”のなかに放つという二段構えで作戦が進む。
機材が復旧したらすぐに交信するために動くサマンサ。そしてルーサーの身体を深海に送る役は、潜水艇の操縦ができるチャーリーに白羽の矢が立った。イールが含まれた注射器を潜水艇に積み、間もなく出発。緊張感が高まるなか、なるべく“イール”の多い深海にたどり着いたチャーリーは、船の操縦が利かなくなったことで「ルーサーの遺体はもう使えない」「私が代わりに行く」と通信する。
驚いた通信室のメンバーから届く制止の声も、通信障害によって途切れた。「チャーリー!」と絶えず呼びかけるシグル。声が届かなかったことを知り、彼の目からは自然に涙がこぼれ落ちる。彼女の悲壮な決意を、感じ取ったのだろう。
チャーリーは本来ルーサーの遺体に打つはずだった“イール”を、自身の心臓付近に注射。そして決意を顔に浮かべながら、潜水艇のハッチを開けて海水を取り込んだ。北極の深海がもたらす冷たさと、間もなく来る確実な死にチャーリーの体が震える。
やがて自動的に潜水艇のハッチが開き、チャーリーの体は深海へ。まぶたは静かに閉じられており、すでに息を引き取っているように見える。そんなチャーリーの身体を、“イール”の光が迎えた。
光がチャーリーの身体を受け止めてしばらく、船を囲んでいた巨大な流氷たちが船から離れ始める。近づいてきたときと同じように、明らかに自然の流れではない力によって動く流氷たち。一度は強い攻撃の意思を示していた海は、再び穏やかさを取り戻したのだ。
それからしばらくして、場面はとある海岸へ移る。遠くに雪山の見える海岸に流れ着いたのは、チャーリーの体だった。亡くなったと思われていた彼女はゆっくり寝返りを打つと、しずかに目を開く。だがまぶたの下から現れた瞳は、明らかにそれまでとは違う鮮やかすぎるエメラルドグリーンに輝いていた。
同作の製作総指揮フランク・ドルジャーは、インタビューで「私はこの作品をディザスターもの(自然災害を描くパニックもの)にするつもりはなく、モンスターもの(怪物を扱った作品)としてアプローチすると決めていました」と語っている。
自然が人間の振る舞いや普遍的な活動の果てに、どうしようもない災害として人類の生活圏に触れる自然災害。たしかに本作は海からの警鐘という一面から見れば災害といえなくもないが、その根底にあるのは2億5千年前から存在していた知的生物“イール”による環境浄化が目的だった。
だがドルジャーの言葉はこうも続く。「ですが、実はそのモンスターは海の中に潜んでいません」。これはさまざまな解釈が可能な物言いだが、ある一面では「人類こそがモンスター」という捉え方も可能だ。
自然を破壊し、“イール”の生活圏を脅かし続ける存在。果てには彼らを直接害する薬剤を発見し、攻撃に出た。一部の“イール”が実際に悲鳴を上げて死に絶えた状況を感じた“イール”が、とっさに攻撃という手段を取ったのは仕方がないことに思える。
「交渉を有利に進めるため」という人類の傲慢な考えが呼んだのは、想像するのも恐ろしい大いなる海の怒りだった。「イールに攻撃の意思はないかもしれない」と語っていたチャーリーの挺身によって怒りは収まったように見えたが、ラストのシーンが意味することとは…。
物語はひと区切りついた形だが、見終わったあともさまざまなシーンとせりふが頭のなかでリフレインする同作。海が示した行動に対する捉え方は、観た人の数だけ存在するはずだ。
◆文=ザテレビジョンドラマ部
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