TVアニメ『薬屋のひとりごと』(日本テレビ系※放送は終了)が2023年にTVerで配信開始された新作アニメの中で最多視聴を記録し、「TVerアワード2023」で特別賞を受賞した。原作はシリーズ累計発行部数が3300万部を突破した日向夏の小説。とある大国を舞台に、毒見役の少女・猫猫(CV:悠木碧)が薬師の養父のもとで身につけた膨大な薬学の知識を用いて、宮中で起こる難事件を鮮やかに解決する姿を描く後宮謎解きエンターテインメントだ。猫猫のヒロインとしては稀有なキャラクターや、上司にあたる見目麗しい宦官・壬氏(CV:大塚剛央)とのもどかしい関係が視聴者の心を捉えた。3月23日放送の第24話で感動のフィナーレを迎えたが、最後にアニメ第2期の制作決定が発表され、改めて大きな話題を呼んでいる。そんな本作を手がけたTOHO animationのプロデューサー・菱山光輝氏に受賞の喜びや制作の過程でこだわった点について聞いた。
――TVerアワード特別賞受賞おめでとうございます。今の率直な思いをお聞かせてください。
菱山光輝(以下、菱山) ありがたいことにTVerのアニメ/ヒーローランキングでは常に上位に入るなど、好評をいただいていましたが、改めてこうして『ワンピース』や『呪術廻戦』というビックタイトルと並んで特別賞を受賞し、多くの方に愛される作品になってくれたことを実感して非常に嬉しく思います。
――どういった点が今回の受賞に繋がったと思われますか?
菱山 大人が見ても痺れるストーリーでありながら、猫猫や壬氏のキャラクター性がキャッチ―で、老若男女問わず幅広い層に受け入れられる形で描かれていることでしょうか。私たちスタッフも、制作や宣伝をしていくなかで、普段はあまりアニメを観ない方にも届けることを意識してきた作品なので、その点でも配信プラットフォームの中でも比較的ライトな層の方々が利用しやすいTVerとの相性が良かったのではないかと思います。
――改めてアニメ化にあたり、工夫した点やこだわりポイントを教えてください。
菱山 先ほどもお伝えした通り、制作にしても宣伝にしても、特定のコア層だけではなく、幅広い方々に観ていただけるようにということを意識して取り組んできました。例えば、画面全体の色味や彩度に関しても、もう少し暗めにしてはどうかという議論もあったんです。ただ、本作は特に高齢の視聴者さんから「見ていて疲れない」「色味が鮮やかで見ているだけで楽しい」という意見をいただくこともあり、彩度が高めの画面構成の方針は、本作の幅広いお客さんに届けたい方向性とマッチしていたのではと思います。
――鮮やかな世界観だなと思っていましたが、そういう工夫があったんですね。
菱山 あとはプロデューサーとして、制作においても宣伝においても、「原作小説に誠実でいよう」というのは、一つの重要なテーマとして掲げていました。「薬屋のひとりごと」は原作小説からはじまり、そこから派生する2つのコミカライズやドラマCDなど、本当に様々な形でファンを獲得してきた作品です。なので、お一人おひとりに「私にとっての『薬屋』はこうです」という理想があって、当然のことながら解釈が違うという意見も出てくるだろうと思いながら制作していました。今回はあくまでも原作小説をベースにしたアニメーションなので、悩んだ時にはまずそこに立ち返って、「まっすぐに原作小説と向き合えているか?」「どこか見栄を張ってはいないか?」「欲張ってはいないか?」と常に自問自答して、監督から何か相談を受けた際にも、そういう観点から意見を言うようにしていましたね。もしかしたら自分が思っているものとは違うと感じられた方もいらっしゃるかもしれませんが、作品チーム全体が持つ誠実な姿勢はコアなファンの方にも好意的に受け取っていただけたのではないかなと思っています。
――声優さんのお芝居も含め、原作の持つ魅力を最大限生かすキャラクターの生き生きした描写も印象的でした。
菱山 お芝居に関しては素人が言うのも大変おこがましいのですが、主演の悠木碧さんや大塚剛央をはじめ、プロフェッショナルな方々に集っていただけたなと思います。お芝居が上手なことはもちろんなんですが、監督がこだわられていた“キャラクターの魂と近い人”というのが意識されたキャスティングになっていたなと。アフレコ現場は和気藹々としていたんですが、いざアフレコが開始するとレベルの高いお芝居のぶつかり合いが始まり、息を呑むような場面が多々ありました。特に悠木碧さんの長ゼリフにおける緩急の付け方は素晴らしく、他のキャストさんたちも刺激を受けて、お互いに高め合っていらっしゃった印象を受けます。本当に皆さんのお芝居には助けられましたし、ご本人たちはそんなつもりはないとは思いますが、「これにどんな絵をつけてくるんですか?」という挑戦状を突きつけられたような気持ちになりました。そうした相乗効果で良い作品が出来上がっていったように思いますね。
――猫猫はもちろんですが、壬氏も多くのファンを連れてきたキャラクターの一人だと思います。色々な顔を持っていて生い立ちに関しても謎な部分を多く残すキャラクターですが、そんな壬氏を映像化する上でのこだわりは?
菱山 キャラクターデザインを担当された中谷友紀子さんも、細心の注意を払われていた印象です。それくらい絶妙なバランスでできているキャラクターですね。男性の力強さもありつつ、壬氏が笑うと“天女の微笑み”と言われるように、女性らしい一面を持っている。それをどう表現するかは、アニメーターの皆さんが非常に悩まれて作られていたところなのかなと思っています。
――男性目線でも壬氏は愛すべきキャラクターだなと思います。
菱山 そう言っていただけるとありがたいです。単純にイケメンでかっこいいから好きになってくださった方もいれば、可愛い!という方向性で愛してくださっている視聴者の方もたくさんいらっしゃって、私にとっては新たな発見でしたね。壬氏は完璧な人と捉えられがちなんですが、実はそんなことはなくて、猫猫や高順(CV:小西克幸)の前で見せる子供っぽいところがあって、それを大塚さんが振り切って演じきってくださったおかげでキャラクターが広がっていったのかなと思います。壬氏というキャラクターを演じるのはすごく難しいと思うのですが、大塚さんの演技の幅広さにはたびたび驚かされました。
――壬氏は後半に行くにつれて作画的にもデフォルメもされていきましたが、キャラクターの幅が広がっていくあのような描き方は、ファンを獲得するための戦略でもあったのでしょうか。
菱山 監督にはもちろんそういう狙いがあったと思います。まずは完璧な人というキャラクターを一旦固定させて、そこから崩していくからこそ可愛さが引き立つのであって、最初から見えてしまうとそこまでのギャップは感じられないと思うんです。そのあたりはすごく計算して作られているんじゃないかという風に私は見ていました。
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