伊藤沙莉、“朝ドラ”ヒロインへの軌跡 仲野太賀と夫婦役での共演経験も

2024/04/01 06:10 配信

ドラマ コラム

伊藤沙莉※2023年ザテレビジョン撮影

2023年にデビュー20周年という大きな節目を迎えた伊藤沙莉が、4月1日(月)から始まる連続テレビ小説「虎に翼」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)で、主演を務める。SNSやバラエティー番組、記者会見などでの素直な発言も好感を集める伊藤。9歳でドラマデビューした子役時代から「女王の教室」(2005年、日本テレビ系)、「GTO」(2014年、フジテレビ系)、「ミステリと言う勿れ」(2022年ほか、フジテレビ系)などの話題作に出演してきたが、いわば“白い役”と“黒い役”のどちらでも目が離せない名優だ。朝ドラで主役を務める国民的女優になるということで、今回はエンタメファンから好感度が高い伊藤の特に印象的な役どころをピックアップしたい。

バーテンダー兼探偵を演じた個性派映画


デビュー20周年イヤーの2023年に公開された、伊藤主演の映画「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」は、東京・新宿を舞台にしたブラックユーモアとサスペンスが詰まった作品。伊藤は新宿のバーでバーテンダー兼探偵を生業(なりわい)とするマリコ役で、FBIから「新宿に紛れ込んだ宇宙人を捜してほしい」という突飛な依頼を受ける。

マリコが気乗りしないまま捜索を始めると、周囲には自称忍者やキャバクラ嬢、殺し屋の姉妹、殺人犯や謎の科学者が現れる。変人が集まる猥雑な新宿の街では、伊藤演じるマリコはむしろキャラクターが薄く、翻弄(ほんろう)されてばかり。伊藤のくるくると変わる表情がコミカルで、また彼女の飾らない明るさが新宿の猥雑さを中和し、クスリと笑える作風の映画に仕上がった。

本作の監督の1人である内田英治氏とは主演映画「獣道」(2017年)でもタッグを組んだ間柄。「獣道」では主人公の1人・愛衣の壮絶な半生を演じ切った。愛衣は母親が新興宗教を信奉する地方の家庭に生まれ、教団に祭り上げられる。中学も中退し、ヤンキーやサラリーマンの家庭を転々とし、風俗嬢を経てセクシー女優として成功する。

いわゆるネグレクトの家庭に生まれた愛衣は、愛され、必要とされる居場所を探すのに必死だった。しかし、実際に周囲から見た愛衣は愛らしく、放っておけない愛嬌(あいきょう)を持っている。明るい作風の作品ならばもっとチャーミングに見せてくる伊藤の愛らしさが、「獣道」では人を惑わせるファム・ファタール(男を破滅させる女性)の魔性の魅力に転化させていく。もう1人の主人公・亮太(須賀健太)からも放っておけない存在に見えるのも納得である。

割と童顔でハスキーボイスが印象的な伊藤だが、このような“やさぐれた役”を演じる機会も多く、2020年公開の映画「タイトル、拒絶」ではデリヘル嬢の世話をするカノウを演じた。「私の人生なんて、クソみたいなもんだと思うんですよね…」と冒頭でぶちまけるカノウは、風俗嬢に応募するも体験入店で挫折し、嬢たちの世話係をしている。ともすれば性のはけ口として消費されながら客に見せない本音を吐き出す嬢たちと同様、カノウも夜の街で人間らしい感情を吐露していく。ハスキーな声色も相まって、リアル感のある伊藤の佇まいは、個性的な装いの嬢たちとのコントラストにもなっている。

「拾われた男」では主人公を支える“糟糠の妻”に


もちろん明るい役柄も多く演じてきており、ヒューマンドラマでは「拾われた男」(2022年、NHK BSプレミアム/ディズニープラスのスターで配信中)に注目してみたい。俳優・松尾諭の半生をドラマ化した本作では、伊藤は松戸諭(仲野太賀)の妻になる比嘉結を演じた。

主人公は一貫して松戸であるが、松戸のアルバイト先の同僚・比嘉が、中盤に彼の俳優人生を支える。4話で、職場での松戸に見せる笑顔はラブストーリーの雰囲気をもたらし、一方で5話では松戸をビンタして?咤(しった)激励する。感情豊かな伊藤の振る舞いのおかげで、松戸の人生も暗過ぎず明る過ぎないものになり、等身大のヒューマンドラマとして楽しめる。

明るいヒロインも、世間の裏街道を歩む個性的なキャラクターもモノにし、血の通った人物として視聴者に印象づけられる。これが伊藤の俳優としての最大の魅力かもしれない。

新しい朝ドラ「虎に翼」では、戦前に日本初の女性弁護士を目指す一本気な猪爪寅子を演じる伊藤。「拾われた男」で共演した仲野も、寅子が暮らす猪爪家に下宿している書生役で出演するということで、2人の再共演で起こる化学反応も楽しみだが、それはさておき今作では彼女の生き生きとした存在感にぴったりの、エネルギッシュなヒロインが生まれそうだ。

◆文=大宮高史

伊藤沙莉※2023年ザテレビジョン撮影