大きな転機になったのは、1990年。劇団四季を退団したのだ。きっかけは当たり役だった「オペラ座の怪人」のファントム役を降ろされたことだった。しかも、それを衣装スタッフから漏れ聞いてしまったのだ。浅利から直接言われれば納得できたかもしれないが、そうでなかった。このとき、市村は41歳。西村の付き人を始めてからちょうど20年。「役者としての“成人式”」(市村正親著「役者ほど素敵な商売はない」)を迎えたと感じ、“独り立ち”を果たしたのだ。
退団後も舞台を中心に活躍していたが、1999年の三谷幸喜脚本の「古畑任三郎」(フジテレビ系)第3期「絶対音感殺人事件」で犯人役を演じたことをきっかけに、映像の世界にも本格的に進出。その威厳ある演技と、トーク番組などで見せる軽やかさのギャップで引っ張りだこになっていった。それでも主戦場が舞台であることは変わらなかった。