ドラマ放送30周年の「古畑任三郎」田村正和×三谷幸喜の黄金タッグが生み出した不朽の名作が令和のいまも“唯一無二”なワケ

2024/06/28 08:00 配信

ドラマ コラム 動画

ドラマ放送30周年の「古畑任三郎」田村正和×三谷幸喜の黄金タッグが生み出した不朽の名作(C)2014フジテレビ/共同テレビ

先日まで再放送されていたミステリードラマ「古畑任三郎」シリーズ(フジテレビ系)。1994年の1stシーズンから始まり、2006年のファイナルに至るまで約22年の長きにわたって制作された傑作タイトルだ。笑いあり、サスペンスありの異色の刑事ドラマはなぜ時代を超えて愛されるのだろうか。放送から30周年を迎えたいま、その魅力を改めて振り返る。

二枚目俳優・田村正和の新境地


主演の田村正和は、歌舞伎役者・阪東妻三郎の三男。1961年に映画「永遠の人」で俳優デビューを果たす。また1960年代後半から1970年代にかけては「眠狂四郎」「鳴門秘帖」といったテレビ時代劇を中心に活躍した。

転機となったのは、1984年に放送されたホームドラマ「うちの子にかぎって…」(TBS系)。それまでは二枚目キャラクターを多数演じた田村だったが、同作では子どもたちに翻弄される三枚目の教師役をコミカルに演じ、演技の幅広さが高く評価された。その後も「子供が見てるでしょ!」「パパはニュースキャスター」「パパは年中苦労する」などのコメディ作品に出演し、コミカルな役柄にも定評を得るように。

そんな田村が1990年代に入って出会ったのが「古畑任三郎」。視聴者を楽しませるコミカルな側面と、寸分の狂いもない推理で犯人を追い詰めるシニカルな側面をあわせ持った主人公・古畑任三郎を演じた。同作は最高視聴率34.4%を記録し、のちに田村の代名詞的作品となる。

三谷幸喜の脚本力が光る、平成版「刑事コロンボ」


「古畑任三郎」は、劇団・東京サンシャインボーイズの活動と並行して放送作家、脚本家として活動していた三谷幸喜の名前を一躍知らしめるきっかけともなった。

同作で目を引いたのは、海外ドラマ「刑事コロンボ」で知られる「倒叙ミステリー」を用いた構成。一般的なミステリードラマは捜査を担当する刑事と同じ視点で、“犯人が誰か明かされない状態”から謎解きが進んでいく。しかし「古畑任三郎」では、まず犯人が被害者を殺害するシーンから始まるパターンが多い。視聴者は“誰が犯人か”がわかったうえで、物語を見るわけだ。

一見完璧にも思えた犯行の綻びを見つけ、どこか人を食ったような言い回しで加害者を追い込んでいく古畑。彼がなにを見てどんな疑問を持っているのか、ちょっとした発言やできごとからなにを読み取ったのか…それらは推理ショーになるまで明かされることはない。特徴的な笑いがときに不気味に映るほど、犯人と同じ息苦しさを味わうことができる。

緩急自在の言い回しで犯人を追い詰める古畑だが、一方で人情味あふれる名言も多い。「たとえですね、明日死ぬとしても…やり直しちゃいけないって誰が決めたんですか?」「死んでもいい人間なんてこの世にいないんですよ閣下」など、推理を終えて自供した犯人に語りかける言葉は硬軟織り交ざったせりふばかり。

また三谷幸喜らしさというべき象徴的なシーンとして、劇中で古畑が“語り出す”一幕にも触れずにはいられない。劇中で最後の推理ショーを前にすると、古畑以外の面々がぴたりと止まり、舞台劇のように古畑へスポットライトが落ちる。そして古畑が“カメラに向かって”どのように犯人特定へ至ったかなどを皮肉交じりに語り、「古畑任三郎でした」とシメるのだ。

普通のミステリードラマにはないメタフィクション的演出は、ユーモラスで「古畑任三郎」ならではの演出として印象深い。あるエピソードではメタフィクションが高じて、「なにしろ正味45分で解決しなきゃならないんです。これは大変なことです。ん~ですからそこのところは、ちょっと…大目に見ようじゃありませんか」といった伝説のせりふまで飛び出したこともあった。本格ミステリーでありながらこうしたお茶目な演出を取り入れるあたり、まさに三谷の遊び心が出ているタイトルといえるだろう。