なぜ、ダメな大人である寅さんを愛してしまうのか。それは『男はつらいよ』シリーズに共通する特徴の1つとして挙げられる“リアル感”が関係してくるだろう。たとえば同シリーズには名言があちこちで登場するのに、そこを“ハイライト”にしない。同作で描かれているのはあくまで下町のダメな大人・寅さんの日常であって、人を教え導く大人物ではないからだ。
雑踏のなかで、何気ないライトで、普段通りのカメラワークに添えられる名言と名シーン。下町のどこかにいるおじさんとその関係者を描くにあたって、派手な演出はいらない。それでも心に残るワンカットが多いのは、自らの心が寅さんの世界に入り込んでいるからなのだろう。
下町という舞台に、欠点がハッキリと目立つ人柄、そして人生のどこかで心に浮かんでくる優しい言動。“ムービースター”ではなく“どこかにいそうなおじさん”像は、あたかも身内のダメな親戚を見ているかのような親近感を生む。最初は「ダメな大人だなあ」と呆れていたのに、回を重ねていくと「まったく寅さんったら」なんて許してしまうようになる。
同シリーズが映画化する前、テレビドラマ版が「ハブに噛まれた寅さんの死」で終わった際はかなりの抗議が殺到したという有名な話も。大好きなスターが物語のなかで有終の美を飾ったのならいざ知らず、身内があっけなく死んだとしたらどうなるか。寅さんがいかに人々のなかで“実在”していたのかがわかるエピソードだ。
日本人の心に実在する寅さんの物語。衛星劇場では『「男はつらいよ」公開55周年記念特集』として、山田洋次監督、倍賞千恵子、前田吟といった『男はつらいよ』シリーズのコアメンバーが作品を語りつくす特別番組「私の寅さんスペシャル」を放送する。そのほか、『男はつらいよ』シリーズから『男はつらいよ 寅次郎の告白』、『男はつらいよ 寅次郎の青春』、『男はつらいよ 寅次郎の縁談』、『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』も放送。記念すべき節目の年、国民が愛した寅さんの物語を振り返るいい機会といえるかもしれない。
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