近年台湾で話題になった選りすぐりの映像作品を、国内の劇場で鑑賞できる台湾映画ファン待望のイベント「TAIWAN MOVIE WEEK 2024」が今年も開催決定! 10月17日(木)〜10月26日(土)まで、東京ミッドタウン日比谷を中心に、TOHOシネマズ 六本木ヒルズ・池袋ほかのスクリーンで無料上映される。本記事では10/18(金)TOHOシネマズ 日比谷で上映予定の『僕と幽霊が家族になった件』と、そのスピンオフドラマで10/24(木)TOHOシネマズ 池袋で上映予定の『正港署』を紹介する。それぞれの作品はすでにNetflixでも独占配信されているので、気になった方はぜひチェックしてほしい。
こんな話を皆さんは聞いたことがあるだろうか。この“道端の赤い封筒”とは未婚のまま亡くなった人を不憫に思った家族が置いたもので、拾うと死者との結婚を強制され、拒否すると不幸が訪れるという。そんな台湾の風習「冥婚」を題材にしたホラーコメディにして、台湾2023年メガヒット映画となったのが『僕と幽霊が家族になった件』である。
劇中で赤い封筒を拾ったのは、よく言えば“熱血一直線”、悪く言えば“単細胞おバカ”な正港(ジョンガン)署の刑事・呉明翰(ウー・ミンハン)だ。封筒を拾ったが最後、あれよあれよという間に結婚式が執り行われるのだが、結婚相手はひき逃げ事故で亡くなったゲイの青年・毛毛(マオマオ)こと毛邦羽(マオ・バンユー)だった。
ゲイに偏見がある明翰にとって毛毛は嫌悪の対象。取り憑いたように身辺にいる毛毛を “消す” つまり成仏させるべく毛毛の願いを成就させようとするのだが……そんな奇妙な “結婚生活” の中で、明翰らが追う事件と毛毛の死の真相に意外な接点があることが判明する。そして毛毛の真の願いも明らかになっていくのだ。
本作が人の心を掴むのは、なんと言っても主役二人のコミカルなやり取りだ。保守的な明翰とリベラルな毛毛、相容れない価値観を持つ二人は打ち解けるはずもなく常に対立状態だ。しかし毛毛の方が一枚上手で、いつも明翰が振り回されっぱなし。毛毛に憑依された明翰が色気たっぷりにポールダンスを踊るシーンは本作屈指のハイライトだ。
明翰の愛すべきおバカっぷり、毛毛の憎めない小悪魔っぷりと二人の冥婚に笑っているうちに、物語はもう一つの婚姻にも迫っていく。それが2019年に台湾で法制化された同性婚だ。本作は、法制化以後の台湾を描いている。「以前の僕らは今を楽しむしかなかった」「でも同性婚が可能になって “生涯を共にすることも可能なんだ”と」という毛毛のセリフは実に印象深い。
しかし、実際は法制化が叶ったことがゴールではない。LGBTQフレンドリーと言われる台湾社会にも依然として偏見は存在する。本作でその役割を担っているのが明翰の価値観ではないだろうか。だが相容れなかったはずの明翰と毛毛は互いを知ることで互いを尊重するようになり、バディとも家族とも言える関係性を築いていく。その姿には、我々がこうでありたいと思うような人間愛を見ることができるだろう。
明翰を演じたのは、ドラマ「時をかける愛」で大ブレイク、日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』に主演したことが記憶に新しいシュー・グァンハン(許光漢 / グレッグ・ハン)だ。
「台湾の国民的彼氏」の異名を持ち、すっかり知的で謙虚なイケメンという印象が定着したシュー・グァンハンに対し、明翰は彼のイメージとは真逆のキャラクター。シュー・グァンハンはかつて「アテンションLOVE」「年下のオトコ」で演じたコミカルなキャラにも定評があるが、本作では改めて「ここまで振り切った演技も板につくのか」と彼の魅力が再発見されるだろう。劇中には全裸で臨んだシーンもあり、その体当たりの演技が光る。
毛毛を演じたのは『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』『杏林医院』などに主演のリン・ボーホン(林柏宏)。
24年9月20日本公開の『本日公休』にも出演している旬の俳優だ。毛毛は高学歴で、動物愛護や環境問題への関心が高いオープンリーゲイであり、性格は小悪魔的かつ感傷的、その上、この世に未練を残した幽霊という唯一無二のキャラクターだ。
そんな毛毛を面白おかしく、かつリアリティある人物に作り上げるべく、リン・ボーホンは役作りで丁寧な取材を重ね“恥度200%”の演技で臨んだという。毛毛の口癖「ウソでしょ (不敢相信)」は当初は具体的に決まっておらず、彼のインスピレーションから生まれたのだそうだ。
本作は、コメディ、ホラー、アクション、サスペンスと枠に囚われないなんでもありの作品だが、その中でホラー要素とヒューマンドラマの要素を担ったのが明翰と毛毛だとすれば、サスペンス要素を彩ったのが正港署のメンバーだ。
キャストは“職場の花” 扱いに不満を抱く女性刑事・林子晴(リン・ズーチン)に『返校』『赤い糸 輪廻のひみつ』のワン・ジン(王浄)、明翰らの直属の上司の張永康(チャン・ヨンカン)に『ラブゴーゴー』『海角七号 君想う、国境の南』やドラマ『次の被害者』『追撃者~逆局~』など数々の作品で名バイプレーヤーとして名を馳せるマー・ニェンシェン(念先)、食いしん坊刑事に『祝宴!シェフ』でブレイクし今や台湾のCMスターとして活躍中のチェン・イェンツォ(陳彦佐)らが勢揃い。明翰らと共に麻薬事件を追う中で署内の内通者疑惑まで浮かび上がり、スリリングな心理戦と見事なアクションを繰り広げている。
またその他のキャストも豪華だ。毛毛の元恋人には日台共同制作ドラマ『路〜台湾エクスプレス〜』などで知られるアーロン(炎亜綸)、そして路上で明翰を追いかける警察官に『1秒先の彼女』のリウ・グァンティン(劉冠廷)、さらに主題歌は台湾の歌姫 ジョリン・ツァイ(蔡依林)が担当し、劇中でも随所に彼女の楽曲が使われている。台湾エンタメ好きなら心躍る豪華な顔ぶれだろう。エンドロールの最後の1秒まで堪能したい。
『僕と幽霊が家族になった件』のあとはスピンオフドラマ『正港署』も楽しみたい。これは正港署のメンバーがメインの “その後” のストーリー。『僕と幽霊が家族になった件』撮影中に監督に「このメンバーでコメディを撮りたい」という思いが芽生え、奇跡的に俳優陣のスケジュールを押さえることができ誕生した作品である。
管内で起きた猟奇殺人事件を追う中で、事件が20年前の「成語殺人事件」(成語=四字熟語) と関連があると踏んだ明翰らは服役中の「成語殺人魔」に接触していく。思わず目を覆いたくなるような現場を捜査するのは、あの正港署員たちにさらに個性豊かなキャラを加えた捜査班だ。
クライムサスペンスの要素満載でありながら鑑賞後に重苦しい気分にならないのは、これ以上ないほど濃い登場人物たち、そしてこれでもかと詰め込まれた遊び心からくる“くだらなさ” との化学反応にほかならないだろう。よくよく観察すると、成語を使った言葉遊び、『羊たちの沈黙』へのオマージュ、『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』を想起させるセリフなど、随所随所に遊び心が散りばめられている。何度見ても新たな発見があるはずだ。
『正港署』には、残念ながら毛毛は登場しないが彼の口癖「ウソでしょ(不敢相信)」が聞かれたり、明翰のセリフや振る舞いから確かに毛毛を感じることができる。『僕と幽霊が家族になった件』も『正港署』も単独で十分楽しめる作品だが、2作合わせて見るとより深みにハマりそうだ。
文/沢井 メグ
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)