ジャーナリストってどんな仕事なのかと聞かれれば、責任感と功名心と野次馬根性の入り混じった泥臭い仕事だと答える。そんなに格好いい仕事じゃない。私は普段、戦争を伝えるジャーナリストではない。
ただそんな私でも、アメリカの分断で内戦が勃発するという究極の局面に直面したら、危険を顧みずに戦争の現状を伝えたいと思うだろう。
この仕事を選んだ人間が持つこの熱情この映画の圧倒的な迫力とリアリティの中で、私は忘れかけていた思いが湧き上がった。そして皆さんはこの映画に出てくるジャーナリストたちの姿をて、大げさだろうと思いましたか?
いやこの泥臭さと冷酷さ無鉄砲さがジャーナリズムなんです。戦争の現場でなくても、何かの感情を置き忘れないと、できない仕事なんです。
明日、起こりうる世界の崩壊をジャーナリストの眼を借り目撃する緊迫の109分。出所も理由も正体も分からない憎悪と殺意に飲み込まれていく絶望の余韻がいまだ頭の中で響き続ける。
ヘイトスピーチが溢れる現在、そこに広がる惨事を「あるわけない」と受け流せないことが何より恐ろしい。
これは戦争映画というより、集団心理の恐怖映画だ。銃の使用を認められた世界では特殊な思想の持ち主と遭遇しただけで悲劇が起こる。
そんな狂気の世界で、カメラを盾に命がけで真実を伝えようとする彼女達の信念に突き動かされて見届けた109分。これを作った意味はなんなのか。いや、間違いなく私達愚かな人間への戒めなのだ。
世界各地で深まる分断、国際秩序の崩壊、溢れるフェイクニュース…。この映画は、戦場ジャーナリズムの視点から、国際社会の現状をあぶりだし、ジャーナリズムの使命を強烈に突き付ける。
国内政治の権力闘争や国際政治におけるリーダー同士の熾烈な駆け引きを現場でつぶさにウォッチしてきた者として、命がけでジャーナリズムのバトンを渡していく姿が脳裏に焼き付けられた。