長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は『ボタニカルを愛でたい』(フジテレビ)をチョイス。
散歩をするとき、どこに目をやるだろう。自然だったり、建物だったり、店先だったり、見るものに溢れている中で、路上園芸に目を向ける人がいる。この『ボタニカルを愛でたい』は、いとうせいこうと、作家であり路上園芸鑑賞家である村田あやこが、街を歩きながら様々な植物に触れていく番組だ。ナレーションはキョンキョン。私の鑑賞した11月21日放送分は『傑作選』と称して、大田区蒲田を練り歩くふたりの様子が映し出されている。
初めて見たのだが、とてもゆったりとした時間の流れる番組だった。散歩番組は他にも数あれど、ここまでストイックに散歩しているのも珍しいのではないか。本当に何も起こらないのである。ひたすら歩いて、植物を見つけては指を差し、「いいですね」とふたりで言い合う。私は朝にこの番組を鑑賞したのだが、今日一日は、おだやかな気分で過ごすことができそうだ。
さて、私は、植物をまったく知らない。この番組では、触れられた植物についての説明が画面隅に表示されるのだが、サクラくらいしか知らなかった。ちなみに、サクラですら、見ても分からないときがある。「あっサクラだ」と指を差して、「あれウメだよ」と言われたことが何度もある。未だにサクラとウメの区別はつかないし、アクエリとポカリ、コーラとペプシ、キリンとアサヒの区別もつきやしない。私の世界は、ほとんど同じものでできている。
自分が植物を知らない分、植物を知っている人はカッコいいと感じる。生き物や川に詳しかったりするのもカッコいい。うらやましいと思う。私はどうしても、自然に興味を持てない。正直、散歩をしていても植物は目に入らないし、自然豊かな場所より都会が好きだ。私はとにかく人工物が好きなのだ。木よりビルを見たいし、公園よりゲーセンに行きたい。園芸には興味があるが、それは、園芸をしているという生活の状態に興味があるのであって、植物は何でもかまわない。ああ、なんとつまらない俗物なのだろう。情緒もなにもあったものではない。
こんなのじゃ悲しいから、田舎の出身だから自然にはもう慣れている、という理由をこじつけようともしてみるが、地元にいるときからPSPにしか興味が無かったのでそれもウソだ。私は生まれながらの俗物。東京に出てきたのも、芸能人と結婚できると思ったからだ。そんな奴が今さら己を変えようとしても無駄というものだろう。俗物として生きよう……。ボタニカルという言葉の意味がまったくわからぬまま……。
■文/城戸
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)