張り詰めた空気のスタジオで、最終シーンのカットが掛かると、有村は使い込まれたタオルを握り締め、チェック用モニターの前に立った。
本作がオールクランクアップを迎えたのは9月4日。制作発表会見から数えると、1年2カ月に及んだ有村の“朝ドラ”ヒロイン生活が、ようやく幕を閉じた瞬間だった。
有村にとって、“朝ドラ”は「あまちゃん」(2013年)以来、2度目の出演。だが、今回はオーディションではなく、脚本の岡田惠和による熱烈なラブコールに応える形でつかんだ、ヒロインの座だった。
「皆さまに新しい風を吹かせていけたら」と意気込み、向かった茨城。この時、有村はあえて体重を5kg増やしていた。「農家で暮らす子に見えるように」──。体重には人一倍気を使っているであろう女優が、プロの根性を見せた。
ところが、4月3日に放送された初回の視聴率は19.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区。以下同じ)。20%を割ったことで、ネット上では厳しい意見も相次いだ。
しかし、視聴者の多くは、数字なんて関係ないとばかりに連日感動の渦に包まれていた。有村演じるみね子が、初めて自分の給料でビーフコロッケを食べる。たったそれだけのシーンなのに、泣けて泣けて仕方がない…。
そんな不思議な現象を起こしたのは、岡田の脚本と有村の演技力の共鳴の賜物なのだろう。熱い支持はやがて視聴率にも表れ始め、先の“ビーコロ”シーンが放送された5月13日の第36回では、20.9%。その後もじわじわと数字を伸ばし続け、9月28日放送の第154回では本作最高の24.4%を記録した。
モニターには、撮ったばかりの最終シーンに続けて、これまでのダイジェスト映像が流された。それを見る有村の目からは、大粒の涙があふれる。
共にクランクアップを迎えた磯村に加え、沢村や木村佳乃ら、駆け付けた12人の共演者陣に囲まれ、有村は何度も涙を拭った。
すると、コメントを求められた沢村は突然、有村の頬を両手で“ムギュッ”。東京へ行く実がみね子にしたしぐさで、その後も本編で度々登場していたのだが、最後の最後にもう一度というわけだ。有村は驚きと照れで、この日一番の笑顔を見せていた。
「谷田部みね子として『ひよっこ』という世界で過ごせたことは、私の宝物です。みんなのことが大好きです!」。“ぽっちゃり”していたみね子はいつの間にか、有村と共にスマートで芯の通った女性になっていた。
たった4年間の物語の中で、みね子は大成するわけでも、大きな目標を達成するわけでもない。そんな異例の“朝ドラ”となった本作は、「新しい風を吹かせていけたら」という、有村の言葉の通りになったと言えるだろう。
「登場人物たちの続きが気になります」と話す有村の希望も、かなえられるだろうか?
なお、同番組の総集編は10月9日(月・祝)昼3時5分から、前後編続けて173分にわたって放送される。
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