国民的俳優の2大巨頭となった有村架純、横浜流星 活動の軌跡を振り返り、見る者を圧倒する演技の源泉を探る

2024/12/30 10:00 配信

映画 コラム

「前科者」© 2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

心に迫る演技力がたまらない、有村架純の演技力


有村が報知映画賞を受賞したのは、映画「前科者」での演技で評価を受けた主演女優賞。同作は罪を犯した前科者たちの更生や社会復帰を目指す保護司(犯罪や非行をした人が、ふたたび罪を犯すことのないように支える民間のボランティア)の姿を描いた同名漫画(原作:香川まさひと、作画:月島冬二)を映画化した作品。岸善幸が監督を務め、有村と森田剛が共演している。

有村といえば映画「ビリギャル」でのド派手な金髪姿や、天真爛漫ながら厳しい戦国の世を生き抜いた大河ドラマ「どうする家康」の瀬名役、さらに元風俗嬢であることを隠さずに自然体で生きる女性を演じた映画「ちひろさん」など幅広い役柄を担う。しかしそのなかで共通するのは、演じる役柄への深い理解だ。

彼女が以前のインタビューで明かしていたのは、役柄のイメージを掴むためにおこなう“ノート術”。演じるキャラクターの人生をイメージして、ノートに書き出していくのだという。せりふやキャラクターの人生を伺わせる設定から、さらに一歩踏み込んでキャラクター像を自分のなかで明確にする。言葉にすると簡単だが、相当にクリエイティブな役作りの方法といえるだろう。

しかしそうした役作りを経て臨む演技には、たしかに心を打つきらめきがある。その源泉は彼女が人生のなかで大切にしていることの1つである「想像すること」に繋がるはずだ。

たとえば第47回報知映画賞で有村が主演女優賞を獲得した「前科者」。有村が演じた阿川佳代は、過去に罪を犯した“前科者”たちの社会復帰・更生を目指す保護司として働く女性だ。有村は役作りのために保護司に関わる資料なども読み、加害者が元々は被害者でもあったこと、育ってきた環境が引き起こした問題の深刻さ、一見どうしようもない切なく悲しい“前科者”たちの境遇を理解したという。

保護司として向き合う登場人物たちの背景をそうした資料と重ね、設定として書いてある以上のことを想像して臨む有村の演技には、想像以上の献身さがにじみ出ている。佳代は保護司として、ひたすら保護観察対象者たちに寄り添う。事件のことを聞くわけでも、環境の問題を尋ねて解決を図るわけでもない。あくまで彼らの現状に耳を傾け、言いたいことを語ってもらい、励ますのみ。自分のなかの正義を押し付けるのではなく、世間の常識を説教するのでも、罪の大きさを言って聞かせるのでもない。

そんな彼女の姿勢は、対象者たちが救われていく姿に強い納得感を覚えさせる。そして彼女があくまでも物語のために存在する“聖母”的な存在ではなく、“社会奉仕で癒したい傷”を持つ1人の人間であることも大事な要素。そうした佳代という人間を、設定以上の“厚み”を感じさせるのが有村のすごさだ。

有村が持つ共感力と理解力が特に活きた映画「前科者」。さまざまな保護観察対象者と向き合って奔走する日々のなか、佳代が担当している工藤誠(森田剛)が姿を消してしまう。そしてその姿が見つからないまま、街では連続殺人事件が発生。工藤が容疑者として扱われるなか、阿川佳代は工藤誠との再会を望んで行動を始め…。

心に迫り、刺すような演技力を誇る有村。そんな彼女が演じる阿川佳代が保護司として前科者を全力で支え、寄り添い、真摯に更生させようとする姿は、有村という女優の集大成ともいえる包容力を持っている。

なお全国のJ:COMエリアで視聴可能な無料チャンネル「Jテレ」では、1月に「前科者」「アキラとあきら」の両作を放送。映画「アキラとあきら」は1月5日(日)夜9時から、映画「前科者」は1月19日(日)夜9時から、それぞれ放送予定だ。

「前科者」© 2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会