世界的写真家の岩合光昭が世界中のネコをネコの目線で撮影し、ネコ愛好家を中心に大きな支持を得ているNHK BSプレミアムの人気番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」。ネコ視聴率ナンバーワンともいわれるこの番組が劇場版が10月21日(土)より公開。番組ファンの間で人気の高い青森・津軽のネコ“コトラ家族”を中心に、コトラの子ネコたちの成長を追った新撮映像に加え、ギリシャやモロッコなど、テレビ未公開映像もある世界6カ国のネコを紹介する。本作の魅力を、番組のナビゲーターであり、撮影カメラマンでもある岩合本人に聞いた。
――「世界ネコ歩き」が映画になると想像されていましたか?
テレビに関わらせていただく人間としては、映画になるのは目標であり、最初にこのお話を聞いたときはすごくうれしかったです。正直、「ネコ歩き」そのものが映画になるとは考えてなかったですけど、以前からネコを映画にしたいという思いはありました。
――映画の中心になっているコトラ家族を撮影されたのは、2015年春にスペシャルとして放送されたものが最初ですよね。今回の映画ではそこに新撮された映像が加えられていますが、春夏秋冬に渡って同じネコの家族を撮られていると、ネコたちに対する思いも変わってくるものですか?
それはもう変わりますね。この子たちのお父さんのような気持ちになっていました。コトラが出産をしたその日に撮影をさせてもらったのですが、その場にいたオスは僕だけで。赤ちゃんを産んだメスネコというのは神経が細やかになっていて、コトラも最初はシャーと怒ったのですが、撮影を始めないで「コトラ、ごめんね。お前は絶対にいいお母さんになるよ」とか、「何匹、生まれたの?」と声をかけていたら、怒っている背中が少しずつ柔らかくなってきました。それで「コトラ、そろそろ撮らせて」と言ったら、「みゃあ」と鳴いてくれたんですね。それでコトラの撮影許可が下りたので、最初の撮影では8日間にわたって密着しました。
通常、子ネコの目が開くのに1週間から10日ほどかかるんですが、コトラの子供たちは5日目ぐらいに目がちょっと開いて。たぶんコトラの子供たちは栄養がよかったんでしょうね。その子たちを8日間撮って、その後、海外のロケに行かないといけなかったので、一旦青森から戻ったのですが、次に1か月半後ぐらいに行ったときには結構大きくなっていて。世の中にこんなかわいい動物がいるのかと思いました。
――津軽での撮影では感動的な出来事があったそうですね。
コトラの家族は1年3か月に渡って子ネコの成長を撮らせてもらったのですが、いつもどおりにネコ目線で地面にはいつくばって撮影をしていたら、コトラの子のハナちゃんが寄ってきて、僕の顔をペロペロとなめたんですよ。そんなこと初めてで、思わず感極まって涙してしまいました。そのときに僕を撮っているカメラが別の方に向いていたので、みっともない姿を撮られなくて本当によかったです(笑)。
――「世界ネコ歩き」は人間だけでなく、ネコも熱中して見る番組として有名です。ネコがこの番組を好きな理由はどこにあると思いますか?
僕たちは画も大切にしているけれど、音楽や自然の音も大切にしています。なので、そういった鳥の声や風の音を聞いて、ネコたちが自分もそこにいるかのように感じてくれているんじゃないでしょうか。そもそも番組をスタートさせる当初から「ネコが見てくれる番組を作ろうね」と話していたので、ネコ視聴率の高い番組と言われるのは本当にうれしいです。
――岩合さんがネコに話し掛ける言葉が優しく、とても耳心地がいいです。
写真展をやったときなんかに、本にサインをさせていただくんですけど、そのときにもときどき言われます。中には「(ネコに言うように)私にいい子って言って」と言う方もいて(笑)。そのときは僕も喜んで「いい子だよ」と言います。
――ローアングルのネコ目線での撮影を行われていますが、海外に行ったときなどに不思議な目で見られることはありませんか?
毎回、そうです(笑)。ニューヨークでは蹴とばされそうになりました。そのときに1日がかりで撮影していたら、「お前たち、まだ撮っているのか?」ってビックリされる人がいて。「俺の家にもネコがいるんだよ」と言うから家にお邪魔したら、ものすごくゴージャスなペントハウスだったんです。どうやらあちらの有名なテレビのプロデューサーの方だったみたいで、あれは驚きましたね。
――岩合さんにとってネコとはどういうものですか?
僕が最初にネコを間近で見たのは高校生のときです。こんな美しい動物が世の中にいたのか、と感動して、そのときも泣いてしまいました(笑)。ネコはそうやって人の心を揺らす力を持っていると思うんですよね。それが何かは分からないんですけど、分からないからこそ探し続けているし、ネコを撮り続けているんだと思います。40年以上ネコを撮っていると言うと飽きないかと聞かれることもありますけど、これからも絶対に飽きることはないでしょうね。パートナーと言うとネコに怒られそうな気がするけど、やっぱり僕はネコが好きなんですよね。
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)