──本作はまず、主人公の夫婦を演じるリリー・フランキーさんと安藤サクラさんのお芝居が素晴らしいですね。
「僕も素晴らしいと思いました。リリーさんが演じる父親は最後まで成長しないキャラクターなので(笑)、演じるという意味で言うと、すごく難しかったと思うんです。この父親は、自分では何一つ生産しないのに、子供は成長していく。一種の反面教師のような、成長するためのハードルになっているんですね。しかも、父親になろうとしているときには父親になれず、息子が自分を超えていったとき、ようやく父親の顔になる。それが切なくていいなと。
安藤さんは、母親の部分も、女の部分も出してくれて…。手前みそですけど、安藤サクラという女優とこの作品とが、非常に幸せな出合いをしたんじゃないかと思っています」
──安藤さんとのお仕事は初めてだったそうですが。
「いやもう…、素晴らしかったとしか言いようがないですよ(笑)。役と完全に一体化して、役としての感情がほとばしっていましたから。現場で彼女のお芝居を見ていて、『美しい』という言葉では表現できないくらい、神々しいものを感じる瞬間が多々あって。こんな現場に立ち会うことができている自分は、幸せな監督だなと思いました。
今回は本当に、家族を演じた役者たちのアンサンブルが見事だったと思うんです。今このタイミングじゃなかったら撮れなかった作品だと思いますね」
──城桧吏(じょう・かいり)くん、佐々木みゆさんの子役2人も、すごい存在感で。特に終盤で見せる表情は印象に残ります。
「物語を通じて、成長していく2人の姿を撮りたいと思っていました。実際、桧吏くんはこの映画の中で成長しましたね。最初のころから随分と表情が変わったと思います。そういう表情を捉えることができたときは、やっぱり映画が豊かになるんですよね。
みゆちゃんは、今回がほぼ初めての演技だったんですが、いわゆる“子役芝居”ではないものが撮れたと思っています。そういえば、撮影期間中、みゆちゃんの乳歯が抜けたんですけど、そのときに急きょ、歯が抜けたシーンを書き足したんですよ。僕の場合、そんなふうに子供の変化に合わせて脚本を書き直すことが多いんですが、そういうことができる、ゆとりのある現場はやはり楽しいですね」
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