「今でも一番やりたいのは連続ドラマなんです」是枝裕和監督が語る 最新作「万引き家族」と“テレビへの思い”
テレビドキュメンタリーの経験から生まれた演出術
──本作に限らず、是枝作品は、ドキュメンタリーを思わせるリアルな描写も大きな特徴だと思います。是枝監督は、過去にテレビでドキュメンタリー作品を数多く手掛けられていますが、その経験は映画作りに生かされているのでしょうか?
「もちろん僕は、映画をドキュメンタリーとして撮っているわけではないし、役者さんにフリーに動いてもらっているわけでもありません。ただ、目の前で起きていることを僕が支配して動かすのではなく、役者さんの内面から出てきたものを発見して、その本質を見極めて、次のシーンを書いていく…というスタンスは生かされているかもしれませんね。『発見して、見極めて、書く』というやり方は、ドキュメンタリーの演出をやっていたからこそ生まれたものだとは思います。そこはブレずに一貫しているんじゃないかな。いろんな意味で、現場で起きたことがやっぱり一番面白いと思うので、それを見逃したくないんですよ。撮影していると、役者の力によって自分が頭で考えていたことを超えたものが生まれる瞬間があって。そのときはやっぱりワクワクしますね」
──では監督にとって、映像作家としてのターニングポイントとなった作品は?
「一つは、初めて自分の企画で作ったテレビドキュメンタリー『しかし… 福祉切り捨ての時代に』(1991年フジテレビ系)ですね。28歳のときの番組ですが、これを撮れていなかったら、きっと僕は映像の仕事はやめていたと思います。企画を立ち上げた時点で自分が撮ろうとしていたもの、考えていた構造が、取材で出会った対象によって覆されて、全く違うものが出来上がる、という経験をこのときにしたんですよ。それこそ『発見』の連続でしたし、その発見が作品のテーマになっていったところもあって。しかも、やっていて非常に面白かったという意味でも、作り手として大きな転換点となった作品です」