2018年春クールのドラマを対象にした「週刊ザテレビジョン 第97回ドラマアカデミー賞」。脚本賞は「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)にて、“おっさん”同士のピュアな恋愛模様を描いた徳尾浩司氏が受賞した。
2016年に放送された単発版を見事に連ドラとして進化させた手腕、テンポのいいストーリーと名ゼリフの数々に多くの票が集まった。そんな徳尾氏に制作秘話と、自身の脚本を基にした出演者たちの演技について聞いた。
――徳尾さんにとって「おっさんずラブ」は初めて単独執筆された連続ドラマですね。脚本賞を受賞された感想を聞かせてください。
ありがとうございます。今回の受賞はキャスト、スタッフみなさんの力がうまく合わさった結果なんだなと、しみじみ思います。実は、これまで脚本賞を受賞した先生方が「みなさんのおかげです」とコメントしているのを読んだときは「またまたぁ」と思っていたんですよ(笑)。でも、実際に賞をもらってみると、みなさんのおかげだとよく分かりました。
――「存在が罪」「恋のオーダーしちゃおうかしら」など、インパクトが強く笑えるセリフがたくさんありました。
「存在が罪」は僕も好きなセリフですね。今回は打ち合わせで貴島(彩理)Pをはじめプロデューサーさんたちとフランクに話す中、彼女たちから面白いセリフが出てくることも多かったです。さらに、役者さんが現場でアドリブ的に発した言葉もあるので、生っぽく受け入れられているのかも。僕は第1話で春田が言った「やってみ~」がお気に入りなんですけど、これは書いたことを忘れていて、てっきり田中圭さんのアドリブだと思っていたら、一応、台本に「やってみ」とは書いてありました。でも、田中さんの言い方がすごくあったかくて、春田のやんちゃでお兄さんっぽい感じが出ていましたよね。圭さんがうまく料理してくれて、第7話(最終話)のラストシーンで僕は書かなかったけれど、もう一度「やってみ~」と言っていました。
――そんなふうにキャストがどんどん台本をふくらませ、セリフを変えたり付け加えたりするのは、脚本家から見るといかがですか?
僕は元々舞台の演出家でもあるので、「この台本どおりにやってくれ」というよりは、お芝居する中で出てきたことを素直にやるほうが好きです。田中さん、吉田鋼太郎さん(黒澤武蔵役)、林遣都さん(牧凌太役)は舞台への出演も多く、キャラクターになりきった上で生き生きとした芝居をしてくれました。ある意味、そのテレビっぽくない空気感も良かったのかな。田中さんと吉田さんのやり取りはもう“無双”という感じがします。「お前がこうくるなら、俺はこうするぞ」という役者さん同士の勝負で、すごく刺激的な現場だったんじゃないでしょうか。
――脚本の構成もすばらしく、毎回、笑えるシーンとせつないシーンがあり、しかも最後に「次はどうなるんだろう?」と思わせる引きがありました。
たしかにラストの引きは、ここ数年、サスペンスや刑事ものを書くことが多かったので、意識していた点ですね。「おっさんずラブ」はオリジナルなので、自分たちでもこの先どうなるか分からないというギリギリのところで作っていました。笑いの場面が多かったのは、元々コメディーが好きでずっと書いてきたから。このドラマは男性同士のラブストーリーがメインではあるのですが、性別の問題を深く掘り下げるよりは、むしろ性別の問題はある種クリアした世界にして、“純粋に人を好きになること”をコミカルに描きたかったんです。
――登場人物は誰も男同士の恋愛ということに違和感を示さないですよね。むしろ「好きになるのに男も女も関係ない」「斬新でいい」と応援してくれます。
優しい世界ですよね。男同士ということをリアルに掘り下げれば、今の社会では様々な障壁があるのかもしれませんが、もしかしたら「おっさんずラブ」の世界は”少し未来”なのかもしれない。「こういう世界だったらいいな」という願望を込めて、今より一歩、いや半歩ぐらい先の世界を描きました。その中で「それでも結局、恋愛って苦しいよね」という普遍的な話をやりたかったんだと思います。
――徳尾さんはTwitterで番組のファンの皆さんと盛んに交流していますが、どんな反応が来ましたか?
第6話放送直後はすごかったですね。春田が牧と別れ、なぜか部長と同棲している。というところで終わったんですが、すごい数のリプライが来て、みなさん「牧とのハッピーエンドにして!」というご希望なんです。まだ日本のファンの皆さんは優しいのですが、(ドラマが放送されていた)海外からのリプライを、「応援メッセージかな」と思って翻訳してみたら「カミソリはどこに送ればいいですか」って(笑)。翻訳しなきゃ良かったと(笑)。「どう解釈したら、部長と同棲という展開になるんだ」という厳しい意見もありまして、さすがに凹み(へこみ)ました。最近ではもう外国語の文字を見ただけでプラスの反応かマイナスの反応かが分かるようになっちゃいました(笑)。
――続編を望む声がとても多いですが、徳尾さんは続編についてどう考えていますか?
第7話で春田が牧にプロポーズする場面を書いたとき、貴島Pに「このセリフを言ってしまうと続編が作りにくいな」ということは言いました。でも、貴島Pが「続編のことは考えず、やりきりましょう」と言ってくれたんですね。そこは唯一悩んだところで、ジャッジの分かれる局面だったと思います。これについてはファンの人から「結婚は人生のゴールではありませんよ」というリプライをもらって、いや、それはそうなんだけど…(笑)。やっぱり恋愛ドラマとしてはひと区切りついた感じがありますよね。だから、今の時点で僕の中に次はこういう物語にしようというビジョンはないんですが、キャストや監督たちを含め制作チームがすごくいいメンバーだったので、また彼らとなら何かできると強く思っています。
――第7話のラストシーンのあとを想像すると、春田は上海に転勤してしまい、牧が春田の実家で暮らしている。続編ができるとすれば、そこから始まるのでしょうか?
そこは皆さんのご想像にお任せしますが、そうですね、春田のお母さんはATARU(アタル)君と暮らし、家を出ていったままですから…。ちなみにATARU君はちょっと年下の男というぐらいで、特に細かい設定を考えてはいません(笑)。あの家には牧くんがひとりで住んでいるんじゃないですか。きっとあそこで春田が帰ってくるのを待っていると思いますよ。
取材・文=小田慶子
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