──須崎さんのこれまでの作品についてお伺いしますが、NHK名古屋局で「リミット~刑事の現場2~」でラインプロデューサー、「鉄の骨」で演出と、社会派ドラマを数多く手がけてこられましたね。
「若いころから、いわゆる社会派ドラマへの憧れはありましたが、名古屋で実際に作品づくりをしていく中で、方向が定まった感じですね。
『リミット~刑事の現場2~』で、武田鉄矢さん演じる刑事が無差別殺人事件の容疑者に向かって『おまえに人権なんかねえ!』と言い放つ、かなりショッキングなシーンがあったんです。テレビドラマの中であのセリフを言ってしまっていいのかどうか、最初は少し不安もあったんですが、いざ放送されると、『よくぞ言った!』という反応が大半で。世の中の人は、犯罪者に対してここまで厳しい目で見ているのかというのは、当時ちょっと新鮮な驚きでした。
ゼネコンの談合を題材にした『鉄の骨』も、公式サイトの掲示板に賛否両論いろんな声が寄せられて、非常に興味深かったです。掲示板に投稿された意見は、基本的には全て載せるようにしていたんですけど、それはそれで『この掲示板はすごい!』とけっこう評判になったみたいです(笑)。僕としてはドラマを作る上で、世の流れとかに迎合するつもりはないんですが、今の人々は何を考えているんだろう、どう感じているんだろう、というのはやっぱり気になりますね」
――作り手としては、世の中に対して異議を唱えたい、といった思いがあるのでしょうか?
「いえ、必ずしもそういうわけではないんです。僕としては、社会問題そのものというよりは、その中で一生懸命に生きている当事者たちの“思い”を描きたい、というか。『鉄の骨』で、ある建設業者の方に取材していたとき、『談合に関与していた人間を、ただの悪人として描いてほしくない。彼らの無念を知ってほしい』と言われたんですね。『あぁ、これはちゃんと受け止めなきゃダメだな』と思って。今回の『透明なゆりかご』にも、取材過程で出会ったたくさんの思いが詰まっています。『ゆりかご』は、僕としてはあまりそんなつもりはなかったんですが、何人かから「社会派作品だね」と言われ、へえ、そうなのかなと思いました。少し前は社会派と言うと、大組織に立ち向かっていくみたいな物語が定番でしたけれど、今は個人個人の思いを描いて紡いでいくような作品こそが、本当の意味での社会派ドラマなのかもしれません」
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