バンド・首振りDollsの生み出すロックンロールの素晴らしさ

2018/10/17 20:45 配信

音楽

首振りDolls撮影●HBK! (FUKCREC)、VJ●TRASH ART WORKS


naoがドラムから離れ、花を抱えて愁いに沈んだ表情で唄い届けるワンマンライヴでしか見ることのできない「菊の変」では、ここまでの盛り上りを嘘の様に静寂へと変えた。真っ赤に染上げられたステージの上で、深く沈む暗くも美しい神秘な世界が演じられていく——。極端に音の少ない世界の中で、感情を吐き出す様に唄われていくnaoのボーカルはとても不思議な空間へと聴き手を誘った。その音は終盤に向かうにつれて重なり合い、乱れ狂う業のように激しい音像へと変わっていった。静寂と喧噪のコントラストがとても美しく描かれた瞬間でもあったといえる。

間髪入れずに届けられたのはおどろおどろしいイントロのギターフレーズが印象的な「鏡地獄」。首振りDollsの過去の代表曲ともいえるこの曲は、江戸川乱歩の著した短編怪奇小説を思わす世界観。それはまさしく、寺山修司、江戸川乱歩、夢野久作らが綴り上げてきた世界に魅了されたnaoの文化的背景が伺える歌詞世界と彼独自の哲学と思想が絡み合ったインテリジェンスだ。


Johnnyがメインボーカルを取り、Johnのベースがフィーチャーされるイントロを設けた「コールガール」から「野良犬のメロディ」と、跳ね感のあるアッパーなザッツ・ロックン・ロールナンバーでここまでの景色をさらに塗り替えると、“もう1人の首振りDolls”として知られるサポートメンバーRakuカワサキ(Guitar)をステージへと呼び込み、ロックン・ロールと歌モノの融合である「ニセモノ」「境界線」へと繋げていった。さらに厚みを増したサウンドとコーラスでのハモリの相性の心地よさにオーディエンスは体を揺らして応えた。ダンスフロアと化したその場で、オーディエンスは完全に手放しで彼らの音を浴び楽しんでいた。

首振りDolls撮影●HBK! (FUKCREC)、VJ●TRASH ART WORKS


Johnnyがセンチメンタルなアルペジオを奏で始めると、naoは静かにそこに言葉を載せた。

「私はいまでもすごく弱くて。一人ぼっちで生きてるみたいな気持ちになるときがあって………。私がこうやって唄を歌うのに、どれだけたくさんの人が支えてくれてるのかってことくらい、分かってるのに……。きっとアナタにもあると思うんだ、そういうとき。どんなに励ましてもらったとしても、誰かと楽しい時間を過ごしても、ふとしたときに1人になると……。私の場合はそういうとき決まって音楽を聴くようにしています。私にとって音楽って、ロックン・ロールって、何の意味もなく勇気づけてくれるアホな友達みたいな存在で。私の唄がアナタにとって、そういう友達みたいな存在になればいいと思う。アナタの傍に私の唄を置いてくれている人はきっと、今、ここに集まってくれたんだと思う。首振りDollsの唄を、私の唄を、私達の唄を傍に置いてくれてありがとう。これからもアナタの傍に居れますように————」(nao)

ときおり、naoがマイクを握りしめる度にマイクがその軋む音を拾った。その音は、彼がこの言葉を届けたい人のことを心から想い、言葉を選びながら、とても大切に語っていたことを物語っていた。

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