倉科カナ、境遇の似た役に「痛みを力に変えた」立川談春「すごい話」

2018/10/29 07:10 配信

映画 インタビュー

立川談春は倉科カナと主人公・さつきの境遇が似ているという話に「すごいこと」と熱く語る撮影=永田正雄


立川談春はオファーを何度も断っていた


――談春さんは出演オファーを受けたとき、どう思われましたか?

談春:僕は宅間監督とは全く縁はないんですよ。一応(この業界の)端くれで生きていますから、東京セレソンデラックスにお客さんが入っているということは存じてはいましたけど、ご縁がある方だとは思っていませんでしたから。だから、「出てくれませんか?」とおっしゃっていただいて「出ませんよ」と(応えました)。

一同:(笑)。

談春:でも、(出演を断っても)ずっと粘られて、諦めればいいのに諦めない。後に、(断っていたことで)どれだけ皆さんに迷惑を掛けたかということも向こうは伝えてこない。泣き落としをしないんですよ。だから、「出てください」「出ませんよ」、2カ月くらいたってから、また「出てください」「出ませんよ」と。あの人(プロデューサー)、仕事の句読点としてときどき俺に断られるのが好きなんじゃないかな?

一同:(笑)。

談春:(この作品を)舞台で見て感動した人がいる。東京セレソンデラックスの中で再演をしてこなかった稀有な演目である。僕が最初に舞台で見ていたら、簡単に映像化されたら嫌ですよね。いやらしい言い方をすると、舞台で生きているから言えるんですけど、どう見たって舞台(の作品)ですから。

でも、(舞台は)観客動員には限りがあります。その人たち(観客)が育ててくれる部分もあるんですけど、実は見ていない人が「なんかすごいらしいよ」「この間、うわさを聞いたよね」って、そっちの人たちが育ててくれるので、あまりにいい作品は、見た人が大事にしておきたいんです。

なので、「そこのバランスをどう取るんですか?」って聞いたら、プロデューサーが「監督がいいと言っているんです!」って言うんです。「作った人がいいと言っているなら、しょうがねえんじゃないの」って思って。それでも、ためらいながら時間を掛けるだけ掛け、皆さんにご迷惑をお掛けしつつ、現場に行ってみたらすごい人ばかりがいて…楽しくはなかったですけどね。

一同:(笑)

――現場の雰囲気はどうでしたか?

談春:知世さんが僕より一つ年下なんですよ。僕より年下で僕より芸歴が長い。頼れると言ったらおかしいけど、姉さんだなと。そして、ふと気付いたら(現場に)自分より年上がいないんですよね。若いスタッフなんですよ。撮ってくださっている方々も、一生懸命いい映画にしようとしてくださっている皆さんがね。

僕らは伝統芸能で生きていると師匠がいたり、かみさんはいますけど子供がいないので、自分の歳と向き合う自意識がない。そんな人生の中で、現場に行って「あ、俺52なんだ」「52ってこういうことなんだ」っていうことを感じてから、六郎っぽくはなりました。

「次、何をどうしたらいいか」とかは監督のものだから。何か言われても「選んだのはあんたなんだから」って言っていましたけど。空き時間のみんなと話せる時に、六郎にならざるを得なかったっていうのは、今考えると“とても幸せなこと”だったんだなって。

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