――撮影期間中の島の方たちとのエピソードを教えてください。
撮影以外でも、ヒゲ面で長靴をはいて行動していたので、島の人たちも『こんな兄ちゃん、島にいたっけ?』という感じで、全然バレなくて(笑)。知らないおじさんと2,3時間ずっと釣りをしたりしてました(笑)。ちょっと歩けば海があるので、待ち時間は撮影している隣でも釣りをしていたんですけど、めちゃくちゃ釣れるんです。釣れた魚を旅館でさばいてもらって、みんなで食べたりしましたね。
人の温かさを感じられる環境だったので、プライベートでもまた行きたいです。自分が本当にフラットに戻れる場所、第二の故郷を見つけていくのは、とても大切だなと思いましたし、日本ってまだまだ素敵な場所がたくさんあるんだなって思えたので、いろいろ掘り下げて知っていきたいなと思いました。
――母親役の松坂慶子さんや、ほかの共演者の方たちとのエピソードを教えてください。
今回は共演者の方の年齢層が違うので、現場の楽しみ方もそれぞれ違っていました。和気あいあいとした雰囲気でしたけど、僕としてはあまりコミュニケーションを取りすぎると役としての雰囲気が変わってくるかなというのもあったので、毎晩皆さんと一緒に食事に行ったりもしてなくて。そういう距離感を作った上でのお芝居ができたと思っています。
母親役の松坂慶子さんはカメラが回っていないところでもずっと優しくしてくださって。すごく不思議なんですけど、松坂さんの手からは何かが出ているんじゃないかと思うほど、触られるだけでぽかっと温かくなって、一気に涙腺がゆるむような感覚になりました。短い撮影期間の中でしたが松坂さんの息子になれたのはとても光栄でしたし、またお会いしたいです。
小市(慢太郎)さんとは旅館が一緒で、なぜかお風呂の時間がかぶるんですよ(笑)。小市さんはすごい聞き上手で、ついつい自分ばかりが話していたんですけど、自分のことを知ってもらえばもらうほど、父親のように徹のことを気にかけてくれる小市さんの役どころとどこかでつながっている感じがして。すごくいい関係を作ることができました。
――TAKAHIROさんにとって、「僕に、会いたかった」は大きなターニングポイントになる作品になったのではないですか?
自分がこの映画を観て一番うれしかったのは、自分の映画じゃないような感覚になれたこと。自分が出演しているものを観ているのではなく、錦織監督の好きな作品を観ているような感覚に陥ったので、そこは自分の中で一つ成功したなと思えました。何も媚びずに、普段とは間逆のことに一生懸命、集中して打ち込めたし、それが自分としては表現者としてとてもいい経験になりました。大きな自信にもつながりましたね。いい意味でファンの方を裏切る作品だと思いますし、観てくださる方たちが素晴らしい映画を観たという感覚になってもらえたら、僕としてはこの長編単独初出演は成功だと思います。
取材・文=松浦靖恵
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)