“ケレン味”と記したが、“ひとり二役”を導入するとおのずと、作品がトリッキーになる。『猟奇的な彼女(2001)』や『僕の彼女を紹介します(2004)』で知られるクァク・ジェヨン監督の『風の色』のほうは、ミステリータッチのひとひねりあるラブストーリー。
北海道の知床と東京を舞台に、古川雄輝は「100日前に姿を消した恋人を探す青年・涼」と「涼そっくりなマジシャン・隆」を演じており、こちらのヒロイン、藤井武美も二役に。東京で暮らしていた「涼」が、恋人ゆりを探しに知床へと向かったところ、口ヒゲをたくわえた、自分に似ているマジシャンの「隆」、さらにはゆりとうり二つの女性・亜矢と遭遇し、不思議な出来事に巻き込まれていく。
これは監督や出演者がインタビューで答えているからネタバレではないと思うのだが、実は“ドッペルゲンガー”という設定で、クァク・ジェヨンらしい時空を超えた奇想を成立させるべく、古川は献身的に身を投じている。Mr.マリック直伝のマジックにもスタントなしで挑戦、とりわけ、大掛かりな水中拘束脱出パフォーマンスは役者魂の賜物だ!
さて。『寝ても覚めても』と『風の色』、それぞれに出演し、東出昌大は第10回TAMA映画賞最優秀男優賞や第40回ヨコハマ映画祭主演男優賞を獲得、かたや古川雄輝はといえば、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019にてニューウェーブアワード俳優部門を受賞した。2人の役者としての“ステップアップ”は、こうして具体的に証明されているのであった。
ライター。「キネマ旬報」「映画秘宝」「クイック・ジャパン」「ケトル」「DVD&動画配信でーた」などで執筆。モデルとなった書籍「夫が脳で倒れたら」が発売中。
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)