僕の芝居の中では最も間口が広くて誰にでも楽しめるお芝居だと思います。特に、映画とか演劇に人生を救われてきた人たち、いわば、この主人公のハルコと同じように現実社会から創作された世界に逃げ込むことに楽しみを見いだしているような人には特別に訴える作品なんじゃないかなと思います。
終わったあとに、良かった、面白かった、だけでは終わらない、それぞれの人生の未来を考えていける雰囲気があるように思います。初演の時はどちらかというと、夢の世界に連れて行ってくれて、夢なら醒めないでほしいっていう想いが強かったんですけど、今回は、その想いもありつつも、あの人はこういう風にこれから生きていくんだろうなと、余韻に浸れるようになった気がします。
登場人物のハルコも高木高助もミチルも、あの昭和11年にタイムトリップしさえすれば、きっとそこに間違いなく実在しているんだと信じています。今このお芝居をやっている間だけは、みんなそろって令和の時代にやって来てくれて、この時空間で好きなように楽しんでいるんだっていうイメージなんです。
どこか、この梟島で、こういう人たちが生きているんだなぁっていう感じがしています。私は、特に何役もやっているので、ミチル(ハルコの妹)だけじゃなくて、名も無いキャラクターを演じているときでも、きっとこの人はこうやって生きているんだなって。どこか信じられる、不思議な説得力があるんですよね、この作品って。
1936年(昭和11年)の秋。東京から遠く離れた小さな島の小さな港町にたった一つだけある小さな映画館「梟島キネマ」。唯一の楽しみが映画という常連客の森口ハルコ(緒川たまき)のお気に入りは、娯楽時代劇「月之輪半次郎捕物帖」に登場する間坂寅蔵役の俳優・高木高助(妻夫木聡)だった。
そんな中、映画を楽しんでいるハルコの目の前に突然、銀幕の向こうにいた間坂寅蔵(妻夫木・2役)が現われる。映画の中からハルコを見ていたという寅蔵は、ハルコの手を引き2人で映画館を飛び出していく。寅蔵がいなくなり、“映画の中”や映画関係者は大混乱に。
時を同じくして撮影のため梟島を訪れていた高助は、知らせを受けて、自らが演じる寅蔵の行方を捜すことに。そしてハルコと出会った高助も寅蔵と同様、ハルコに一目惚れしてしまう。虚構と現実、憧れと生活のはざまで、ハルコの恋心は揺れ動いていく。
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