柄本佑、前田敦子、三浦透子出演の「素敵なダイナマイトスキャンダル」はもうひとつの「全裸監督」だ! <ザテレビジョンシネマ部>

2019/12/06 07:00 配信

映画

【写真を見る】成人向け雑誌のカリスマ・末井昭の妻を前田敦子が演じる(c)2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会


この映画では、本人いわく“僻地”の出身で、カネもコネもなく、学歴も当てにできなかった末井青年が、名立たる猛者たちの中でひょうひょうと自己実現の階段を駆け上っていく過程がワクワクした高揚感とともに描かれる。それが前半の展開で、実は後半はトーンが変わるのだ。前半が“青雲立志篇”だとするなら、後半は“黄昏流星篇”とでも呼べるだろうか。

本作の直接の原作になったのは、末井が34歳の時、1982年に発表した同名自伝だ。「お母さんは爆発だ」という刺激的かつユーモラスな章タイトルで始まるこの名著「素敵なダイナマイトスキャンダル」は、末井にとって最初の著書であり、当時は北宋社より刊行された。やがて角川文庫にもなり、現在はちくま文庫から発行されている。

そして“裏の原作”といえるのが、講談社エッセイ賞を受賞した末井の2013年発表の『自殺』(朝日出版社)である。こちらは内省的な筆致の内容(末井の言葉を借りれば「ドヨ~ン」とした気分)で、主に映画の後半のトーンを決定づけている。そんな“光と影”のコントラストこそが映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』のキモであり、味わい深さだ。狂乱の馬鹿騒ぎと、祭りのあとの寂寥。陽から陰への転換に際してのキーパーソンとなる“ある女性”役の三浦透子が素晴らしい。

もちろんここに『全裸監督』を接続させれば、日本社会の秘部を滑走していくクロニクルとしてさらに味わいが増すだろう。ナイスですね!の天才怪人伝と、異能文化人のステキな爆発。ぜひ併せて楽しんでいただきたい!

文=森直人



1971年和歌山生まれ。著書に「シネマ・ガレージ」など。近刊「フィルムメーカーズ 大林宣彦」(宮帯出版社)にも執筆参加。

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