<攻殻機動隊「S.A.C. TRILOGY-BOX : STANDARD EDITION」&「SAC_2045」> 神山健治監督×マフィア梶田の濃密対談公開!

2020/02/12 21:37 配信

アニメ

「公安9課のメンバーは“ディストピア”で楽しく生きてる奴らなんですよ」(神山)


「攻殻機動隊 S.A.C. 」シリーズと、最新作「攻殻機動隊 SAC_2045」を手掛ける監督・神山健治(写真左)と、生粋の“攻殻フリーク”として知られるマフィア梶田(同右)(c) 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会


マフィア梶田:「攻殻機動隊 SAC_2045」(以下、「SAC_2045」)が始まる前に、「攻殻機動隊 S.A.C.」(以下、「S.A.C」)シリーズを見返して、愕然としたんですよ。というのは、モチーフとして政治的・社会的な情勢を描いているのに、一切古くない。つまり「S.A.C.」が発表されてから20年近く、社会の形相はほとんど変わっていないんです。

神山健治:しかも残念なところが変わっていなくて、良いところもさほど増えなかった。もちろんテクノロジー自体は進んできたけれど、一番肝心な“人間”が変わらない。というのも、「S.A.C.」第1期(「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man」)では、僕が10代後半の多感な時期を過ごした昭和後期を咀嚼(そしゃく)し直してみようというのが一つのテーマだったんです。自民党の55年体制が終わって「新しくなっていくんだ!」みたいな空気があり、グローバル化と言われだしてアメリカの顔さえ見ていれば良く、一方で中国については蓋(ふた)をして触れられない時期のことを描きました。それから20年経って、イギリスがEU離脱するなんて考えられなかったことも起きたけれど、日本は20年間ほぼ変わらぬまま。当時ですら「失われた10年」と言われていたのに、今や失われた20年を経て、30年目に突入している。

梶田:まさしく今、中国とアメリカは二大大国としてバチバチですね。「S.A.C.」第2期(「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG Individual Eleven」)は、その未来を予感させる作品でした。でも2020年になった今、映画「ブレードランナー」(1982年)で描かれた時代を迎えているはずだったのに、こんなに夢のない世界になっている。それがアニメ作品にも影響しているような気がするんです。実際、「攻殻」のような未来像を描く作品に対する夢がどんどん失われていませんか?

神山:確かに「未来を描く」というのはアニメが得意としていたジャンルなのに、創り手はいなくなってきたし、視聴者側も求めていないのかもしれないですね。

梶田:どんどん刺激に対して鈍くなっていると感じています。でも、そんな難しい時代に新作「攻殻機動隊 SAC_2045」が出る!……新たな「攻殻」を描くにあたっては、かなり苦労されるんじゃないですか?

神山:そうですね、テクノロジーはどんどん追いついてくるし、でもインターネットが登場したときのようなビッグバンはもうしばらくないだろうし。やっぱりテクノロジーのビッグバンがあったときに良いSFが育つけど、それがないから夢がない。SFがダメなときにはファンタジーが盛り上がるけれど、最近のファンタジーは設定を楽しむものではなく、「苦しすぎる現実からの逃避」としてしか描かれていません。

「攻殻機動隊 SAC_2045」について「世界に向けた新しい表現でありつつも、これまでの『攻殻』の延長上にある未来の物語になっている」と語る神山健治監督(c) 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会


梶田:消費されるファンタジーですね。

神山:そう。そこでいざ「攻殻」を作ろうと思ったら、確かにあまりやることがないんです。だから楽しくやることにしました。これまで“難し系”や“社会系”と言われていた「攻殻」を、入り口はちょっとおバカで始めようと思ったんですよ。

梶田:! …それは、ちょっと予想外でした。

神山:メインとなる公安9課のメンバーはスキルがあって、自己責任で生きられる奴らだというのは揺るぎない設定です。彼らが「もう社会正義とかどうでもいいから楽しいことをやろう」というところから物語をスタートさせるのが、今の時代に合っているんじゃないかな?と考えて、みんなが遊び暮らしているところから始まります。彼らは自分のスキルを存分に振るえれば、お堅い公安だろうがどこでもいい連中なので、ディストピアで楽しんでればいい。映画「マッドマックス」(1979年ほか)の世界が来たら幸せな奴らなんですよ。

梶田:面白い発想ですね。超、憧れます。

神山:予告編からは「攻殻」らしくない感じを受けるかもしれないですね。一方で「攻殻」は僕の中で“今”を切り取るためのツールでもあるので、公安9課のメンバーたちが今の社会を見たときにどう感じるかが、新シリーズのテーマなんです。