瀬戸康史、三吉彩花 あらゆるタブーを内包した舞台『母を逃がす』に出演「挑戦といえる作品」 ＜Interview＞

――「緊張しぃ」という瀬戸さんは、舞台に立つ前に、何かゲン担ぎをすることはありますか？

瀬戸：舞台の袖に10分前ぐらいに行って、想像をします。頭の中で笹舟を思い浮かべて、ネガティブなことをその船に乗せて流す……というのを必ずやっています。そうすると落ち着くんです。

――瀬戸さん流のルーティンですね。それでも舞台の上で急にセリフが飛んで、頭がマッシロになることもあると思うのですが。

瀬戸：そういうことも、なくはないですね(笑)。でも、口を開けば自然とセリフが出てくるんです。今のところは、それで乗り切ってます。

――『母を逃がす』は、あらすじを説明するのも難しい、さまざまな人間模様が交錯した作品ですが、台本を読んでどんなことを感じたのでしょう。

三吉：私が演じるリクは、セクシャリティ含めて、生きていくことに対してすごく素直。「自由でいたい」という思いがとても強い女の子だと思いました。何度も台本を読んで、彼女の生き方や兄妹の関係性が見えてくると、一見複雑なのですが、この集落の中で起こっていることは、意外と単純なことなのかなと思えました。

はちゃめちゃな役どころなので、役者としておもしろさは感じているのですが、最後まで自信はないんだろうなぁ(笑)。「新しい挑戦」だと思ってやらせていただくことにしたのですが、今、腰が引けてきています(笑)。

瀬戸：今の時代って、変なしがらみの中で生きて行かなきゃいけない不自由さみたいなものがあるじゃないですか。この作品は、自分らしく生きるという、当たり前なんだけど忘れてしまうこと、人間である上で忘れちゃいけないことみたいなものを思い出させてくれる作品なのかな……というのは感じました。

複雑な物語のいろいろなところに「笑い」がちりばめられてはいるのだけれど、「ここで笑ったら、人としてどうなのかな？」というなんともいえない感情が芽生える作品でもあって(笑)。そういうところが、松尾スズキさんらしいというか。

今回は、松尾さんの原作、ノゾエさんの演出という、今まで僕が関わったことのない2人の作品。僕にとっても「挑戦」といえる作品になっています。

さっき三吉が「腰が引けてる」と言いましたが、新しい作品に入る上で恐怖心はつきものですけれど　それを自分への試練と捉えて、みんなとこの難解な作品に挑んでいければなと思っています。

――初めてご一緒されるというノゾエさんの演出で期待していることは？

瀬戸：一番大きいのは、ノゾエさんも役者だということですね。そして、これを書いた松尾さんも役者だというところがデカいんじゃないかな？　僕らと違わないというか、これは想像の範囲ですけれど、役者だからこそ、僕らを気持ち悪いままにしないというか。そういうイメージです。

三吉：今回ノゾエさんは、演出をしながら、役者として出演もされます。ノゾエさんと一緒に取材を受けたときに聞いたのですが、両方やるかどうか、最後まで悩まれたそうです。そこで、「演出だけという楽な道を選ぶより、両方やるという険しいほうに行きたがる……」ということをおっしゃっていたんです。だからこそ私たち役者に寄り添って考えてくださるんだろうと思いました。

ノゾエさんから直接お話をきいた前と後では、作品に対する捉え方も少し変わりましたし、信じて解放しても良い方なんだなと思えました。