今を生きていくためのヒントに繋がる映画 細田佳央太「町田くんの世界」×稲垣吾郎「半世界」<ザテレビジョンシネマ部>

2020/04/17 09:45 配信

映画

『町田くんの世界』 (C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会


映画アドバイザー・ミヤザキタケルがおすすめの映画を1本厳選して紹介すると同時に、併せて観るとさらに楽しめる「もう1本」を紹介するシネマ・マリアージュ。

第14回は、ある高校生と周囲を取り巻く人物たちの人間模様を通し、多くの人が大人になるにつれて手放していってしまうものを描く『町田くんの世界』(4月20日(月)昼3:00、WOWOWシネマほか)と、多くを手放してもなお続いていく人生のあり方や過酷さ、変わらないものもあることを感じさせてくれるアラフォーのリアルを描いた『半世界』(4月23日(木)昼0:40、WOWOWシネマほか)をマリアージュ。

純粋で真っ直ぐな少年の物語『町田くんの世界(2019)』


安藤ゆきの少女マンガを、『舟を編む』(‘13)、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(‘17)の石井裕也監督が、約1,000人の中からオーディションで選ばれた新人2人を主演に実写映画化。見た目も地味で運動も勉強も苦手だが、人を愛する才能がズバ抜けた高校生の町田一(細田佳央太)が、クラスメイトの猪原奈々(関水渚)との出会いをキッカケに“分からない感情”を知り、周りのすべてを巻き込んで答えを探していく。

かつて誰もが思っていた。友達100人できると、初恋の相手と結ばれると、アニメのヒーローのように困っている人がいたら手を差し伸べるのが当たり前だと、輝かしい未来が訪れるに決まっていると、人と人は絶対に分かり合えるものだと。

でも、どこかのタイミングで考えを改める。抗い続けたとて、いつの日かきっと打ちのめされる。信用できる友達はわずかで、初恋の相手と結ばれるのはひと握りで、困っている人がいてもスルーしがちで、思い描いた未来とは異なる今を生き、人と人は必ずしも分かり合えるとは限らない。

そんな風に、大人になれば否が応でも色々なことを割り切りながら生きていく。町田くんの世界、それは僕たちが手放したり諦めてしまった世界で、本作は誰もがかつて所持していた純粋で真っ直ぐな想いを手放すことなく持ち続ける少年の物語だ。

「可能性を手放してしまったのは僕たち自身の弱さ」


『町田くんの世界』 (C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会


人によっては思うだろう。こんな奴はいるはずがないと、こんな想いのままで生きられっこないと、いつかは僕たちと同じ絶望に直面すると。彼のような分け隔てない優しさ、周囲の目や言動にとらわれ過ぎないメンタル、損得勘定やリスクを顧みない行動力、確かにどれもこれも絵空事に思えてしまうかもしれない。百歩譲って学生のうちだけで、社会へ出れば変わってしまうと。

しかし、彼のような想いを貫き通したまま大人になることだってできたはず。そう、可能性を手放してしまったのは僕たち自身の弱さや驕りでしかないことに、この作品は気付かせてくれる。

『町田くんの世界』 (C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会


抱いていた希望や願望や幻想が清らかであればある程に、それを信じられなくなってしまった時のダメージやショックは大きい。大抵の場合は耐え切れなくなって逃げ出してしまう。だが、そこから逃げ出すことなく想いを貫き続けられたのなら、清らかさは純度を増し、周囲により良い影響を及ぼすまでになっていく。

本作終盤で見せつけられることになるのは、まさにその象徴であり極み。人によっては拒否反応を示してしまうかもしれないが、描かれていたのはおそらく希望であり可能性。その上で、自分が一体何を諦め、何を手放し、もし想いを貫き通したなら何を得られたのか、町田くんの姿を通して垣間見ることになるだろう。