SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットにて全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す17の国際目標。地球上の「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」ことを誓っている。
フィクションであれ、ノンフィクションであれ、映画が持つ多様なテーマの中には、SDGsが掲げる目標と密接に関係するものも少なくない。たとえ娯楽作品であっても、視点を少し変えてみるだけで、我々は映画からさらに多くのことを学ぶことができる。
フォトジャーナリストの安田菜津紀が、映画をきっかけにSDGsを紹介していき、新たな映画体験を提案するエッセイ。第2回は、英国の放送局BBCなどが5年間、延べ4500日かけて世界の200カ所で撮影し、野生動物たちの貴重な生態を撮影するのに成功した自然ドキュメンタリー『アース(2007)』( 5月2日(土)午前4:55、WOWOWプライムほか)と続編『アース アメイジング・デイ(2017)』( 5月2日(土)午前6:40、WOWOWプライムほか)から、「目標13:気候変動に具体的な対策を」「目標14:海の豊かさを守ろう」「目標15:陸の豊かさも守ろう」「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」の4つについて考える。
暗闇に波音だけが響き渡る午前2時、岩手県陸前高田市では、漁師さんたちが仕事へと向かう時間です。広田半島の先端にある根岬から、満天の星空を眺めながら、それぞれの持ち場がある沖を目指します。そんな漁船に同乗させてもらうのが、私のライフワークです。
港を離れてから2時間、この船の揺れでは星の写真は撮れないな、と考えているうちに空が白んできます。エンジンを止め、漁師さんが黙々と海の底から籠を引き上げていきます。気づけば“おこぼれ”を狙う海鳥たちが飛び交いはじめ、にぎやかな朝を迎えます。
東日本大震災で甚大な被害を受けながらも、彼らは海の恵みを日々届けてきました。そんな復興へと向かう背中を見る時間は、私にとってもかけがえのないものでした。
ところがこの数年、その営みに不穏な影が見え隠れするようになりました。これまで獲れていたはずの魚たちの姿が見えないのです。毎年5月には、網いっぱいにかかっていたはずのシラスが、何時間探しても魚影さえ見えない日もありました。秋になると定置網をにぎわせていた鮭も、めっきり減っています。
陸前高田市では、冬にアワビの「口明け」があります。穏やかな凪の朝の数時間、資格を持った漁師さんたちやご家族に、アワビ獲りが許されるのです。資源の保護も兼ね、潜って根こそぎ獲るのではなく、小さな船の上から箱眼鏡で海中を覗き、鉤のついた竿を海の底へと伸ばしていきます。岩と同色のアワビを見つけるのも、鉤の先に引っ掛けて上手に引き上げるのも、鍛錬が必要な技です。
早朝、日の出と共に「アワビ獲り開始」のサイレンが浜に響くと、すでに海上にスタンバイしていた漁師さんたちが一斉に海底を覗き始めます。その集中力たるや、凄まじいものです。アワビは高値がつき、「漁師のボーナス」とも呼ばれています。それだけに、彼らの集中力はいつも以上に研ぎ澄まされています。「終了」のサイレンが響き渡ると、籠いっぱいにアワビを積んだ船が、次々と港へ戻ってきます。どの顔も清々しく、そして誇らしげでした。
ところが昨年2019年冬、アワビは口明けさえ叶いませんでした。どんなに海底を探しても、殆どその姿が見えなかったのだといいます。海洋資源の問題は、様々な要因が絡み合い、単純化して語れないかもしれません。ただ、漁師さんたちはその異変を、特に水温の変化を肌身で感じていました。「水温が下がりきらないとね、昆布が放卵しないんだよ。昆布が育たないと、それをエサにしてるウニもアワビもいなくなってしまうんだ」。
異変は「獲れなくなること」だけではありません。最近になって漁師さんたちの網に、南方でしか獲れないはずの伊勢海老がかかってくるようになったのです。「伊勢海老は千葉辺りが北限だと思ってたんだけどなあ」と、引き揚げた漁師さんも戸惑います。
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