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映画「アース」に学ぶ『SDGs』 美しい自然の中に混じる“不協和音”から見えてくること<ザテレビジョンシネマ部>

2020/05/01 07:00

『アース』2作品からひもとくSDGs


『アース』
『アース』(c)BBC Worldwide 2007


そんな敏感な自然の呼吸をとらえたのが、英国の放送局BBCが総力を注いで作り上げたドキュメンタリー『アース』、そしてその続編『アース アメイジング・デイ』です。密林にすむ、まばゆい鳥たちの羽ばたき、恋するナマケモノの愛らしさ、闇に浮かぶ光るキノコの妖しい美しさ、目を見張るような壮大な風景と、生き物たちの輝きの数々を見事におさめた映像に終始圧倒されます。

アース』では北極から南極までの命の旅を、『アース アメイジング・デイ』では生命の「一日」をテーマにしています。どちらのドキュメンタリーも、軸となるのは、私たち生き物が皆、太陽のエネルギーと共に呼吸している、という視点です。

ところが、その美しいハーモニーには、微かな不協和音が混じっているのです。氷が解けて狩りができないシロクマが、お腹を空かせ、トドの群れの中で力なくうなだれる姿がありました。大海原を悠々と泳ぎエサを求めるザトウクジラも、水源を求めて乾いた大地を旅するゾウたちも、その「居場所」がじわりじわりと削られようとしているのです。

2つの映画には、人間の姿が殆ど出てきません。けれども『アース アメイジング・デイ』は、その「不協和音」の背後にある、私たちの“豊かな”営みの存在を確かに示していました。「私たちは消えることのない人工の光を作り出し、昼と夜のリズムから解放された。こうした暮らしだと、自然とのつながりを忘れてしまいがちだ。友人にも気づけない」と。そして太陽のリズムから“解放”された「代償」は、予想以上に大きく跳ね返ってこようとしているのです。

温暖化、大気や海洋の汚染、こうした環境の変化への対応は、国同士の連携が欠かせません。SDGsの中では、「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」が欠かせないということになります。空も海も、つながっています。ある国が対策をしても、その隣国が持続可能な開発に配慮しなければ、汚染した水も大気も国境をまたいでやってきます。ただ、「国同士の取り決めに任せていればいい」と丸投げしても、出口は見えないでしょう。「開発」の利益を享受しているのは、私たち一人一人なのです。

こうした環境が発するメッセージに耳を傾け、アクションを起こしたことで近年大きく注目されたのが、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんでした。彼女はアメリカの人気番組『The Daily Show(ザ・デイリー・ショー)』でこう語っています。「あなたたちの国では、温暖化は信じるか、信じないかの問題として議論されます。けれども私たちの国では、“事実”として語られているんです」。

ところが、グレタさんをはじめとした環境問題に携わる若い世代に、「こうしたらもっとよくなる」「こんな方法もある」と建設的な提案をするのではなく、ただ揶揄するだけの大人の姿も目立ちます。電車に乗って帰路につくグレタさんに向かって、「馬車に乗れ」という、聞くに堪えない声まであがりました。こうしてただただ冷笑したところで、今の状況がよくはならないにもかかわらず。けれども他者をあざ笑っている間に、私たちはシロクマのようになってしまうのです。氷が解け、エサが獲れず、さまよいながらやがて飢えていく、あのシロクマです。

アース』が作られたのは2007年、警鐘はその頃から、いやそれよりもずっと前から、至るところで鳴らされていたのです。SDGsの「目標13:気候変動に具体的な対策を」「目標14:海の豊かさを守ろう」「目標15:陸の豊かさも守ろう」も、近年になって急に掲げられたスローガンではありません。今からの行動では遅すぎるのか、そうではないのかも、私たちにかかっているのでしょう。

グレタさんの活動に触れ、次世代につけを回さないため、小さくても自分ができることに力を割いていこうと、私も強く思えるようになりました。最近ではマイボトルの持ち歩きに加え、マスカラをトウモロコシの成分を使っているものに変えました。マイクロプラスチックによる汚染に加担しないように、と。

「何それ、“意識高い系”?」と思うでしょうか? それとも、「そんなこと考えていたらきりがない」と感じるでしょうか? けれども私たちの日常を少し変えるだけで、よりよい未来を築く可能性を増やすことができるのです。毎朝マスカラを使う度、そんな思いを新たにすると、一日を丁寧に生きられる気がします。問題は個人の力が小さいことではなく、一人一人の力を信じられない社会のあり方なのではないでしょうか。

『アース アメイジング・デイ』
『アース アメイジング・デイ』(C)Earth Films Productions Limited 2017


文=安田菜津紀


神奈川県出身。1987年生まれ。フォトジャーナリスト。東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)ほか。

この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。

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[放送情報]
「アース」
WOWOWプライム 5/2(土)午前4:55
WOWOWシネマ 5/28(木)深夜3:00

「アース アメイジング・デイ」
WOWOWプライム 5/2(土)午前6:40
WOWOWシネマ 5/29(金)午前4:45

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