――由利麟太郎役のオファーを受けた時のご感想は?
面白い挑戦だなと思いました。そもそも、普通のドラマをやるのなら、僕には声を掛けないでしょう(笑)。変わったこと、攻めたことをやりたいというプロデューサーや監督の思いを感じました。
由利麟太郎については、ちょっとだけ知っていました。横溝正史さんが金田一耕助よりも前に生み出していた名探偵。原作通りの時代設定で映像化するのはいろいろと難しいんじゃないかと思ったので、現代に置き換えると聞いて、「なるほどな」と。うまい具合に時代を飛び越すことができれば、成立するだろうと思いました。
――意外にも、本作が地上波連続ドラマ初主演作ということですが、その点については?
そこは正直に言って、あまり意識していないんですよ。「俺でいいの?大丈夫なの?」とは思いましたけどね(笑)。ありがたかったのは、以前「黒書院の六兵衛」(2018年、WOWOW)でもご一緒した、東映京都のスタッフの方々とまた組めたことですね。今回の企画を聞いて、「京都で撮ったら良いんじゃないですか?」と提案したら、制作サイドも同じ考えだったので、太秦の東映撮影所を拠点にすることになりました。結果的に、やっぱり京都で撮れて良かった。ロケに行っても、趣のある建物が多いし、太秦のスタッフは映像に独特の陰影や奥行きを出せる。普通のテレビドラマとは一味違った、映画のようなスケールとこだわりで撮影ができたことに、手応えを感じています。
――由利麟太郎をどのような人物と捉えていらっしゃいますか?また、演じるにあたって、特に意識されたことは?
由利は、金田一耕助とも対照的で、推理においては徹底的に現場を観察して、記憶し、分析していく。今回の作品では、アメリカのハンターから学んだやり方(トレース技術)が、彼の基盤になっているという設定なんです。そこからイメージを広げて、荒野のカウボーイ的な人物像が見えてきました。由利麟太郎は、過去のある事件のことを引きずっていて、心の根底に深い孤独感がある。二度と取り戻せないものをずっと追い求め、人生をさすらっている…。演じる上では、そんな彼の内面を、せりふじゃなく横顔や後ろ姿で醸せればと思っていました。だから劇中でも、必要最小限しか喋っていません。たまには、こういう主人公がいても良いんじゃないですか?(笑)
――弓道のシーンがありますが。
打ち合わせの時、ちょっと前から弓をやり始めたという話をしたら、「それ良いですね!」と言われて、由利麟太郎も弓道をたしなんでいる設定になりました(笑)。事件の真相を見抜くべく、精神を集中させるくだりで、弓道のシーンが出てきます。
由利が事件現場などでよく見せる手のポーズも、実は弓道と関係があります。弓道では、弓の握り方のことを“手の内”といいまして、それがすごく大事なことなので、手の内を明かすということわざもそこからきているんですが、あのポーズはまさに、由利の手の内なんですね。フレミングの法則ともちょっと似ていますが、そっちが由来ではありません(笑)。
――由利の弱点は先端恐怖症ですが、吉川さんに弱点はありますか?
高い所が苦手です(笑)。今回、撮影所の屋上から下をのぞき込むというシーンがあったんですが、「吉川さん、もっと身を乗り出してください」と指示されて…。なんとなく、カメラマンも僕を見ながらニヤニヤしているんですよ。だから、あれは僕の弱点を誰かスタッフが知っていて、わざといじめたんじゃないかと疑っています(笑)。
下が水なら、10mとか15mの高さでも、平気で飛び込めるんですけどね。コンクリートだと怖くて、下を見るだけでもダメです。逆に飛行機くらいの高さなら、むしろ大丈夫なんですけど(笑)。
――ホラーミステリーにちなんで、吉川さんのホラー体験がありましたら教えてください。
ホラー体験はないですね。ミュージシャン仲間には霊感の強い人が意外にいて、僕がなんともなくても「ゴメン、俺、この場所はダメだわ」みたいなことがあったんですけど、自分は感じたことがなくて。だから、霊の存在自体をあまり信じていないようなところがありますね。そもそも、危害を加えないのであれば、別に近くにいてもらっても、一向に構わないんですけど(笑)。
――ドラマのお薦めのポイントをお聞かせください。
地上波のドラマとしては攻めた、挑戦的な企画だと思っています。まずは、その不思議な手触りを楽しんでほしいですね。
そして由利麟太郎と助手の俊助(志尊淳)、さらに田辺(誠一)くんが演じる等々力警部を加えた3人のやりとりにも、ぜひ注目してください。ホラーミステリーの中で、ちょっとしたアクセントになっていると思います。
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