――番組制作、映像化に当たってのご苦労はありましたか?
当時のことを伝えようとしても、当人の残る映像も音声もありません。材料は、堀悌吉本人が残した資料と、関係者の証言です。テレビの世界では、資料の接写は退屈な映像になってしまうからと嫌う人が多いんですね。でも、私は資料そのものが人を表す物語の根本にもなると思います。残された貴重な資料をどう映像化して見せていくか、それが勝負だろうなと考えて作りました。
――「戦争」をテレビや映画といったメディアで伝えることが、佐古さんのライフワークになっているように思います。そうした決意がありますか?
自分の中にはありますね。メディアにはいくつかの役割がありますが、そのうちの一つが「二度と戦争をさせないこと」だと思います。過去に向き合うことがそこに繋がる道だと思いますので、私自身向き合い続けたいと思っています。
戦後75年、どんどん戦争証言者はいなくなっていきます。戦争体験者の皆さんがいらっしゃる限りは、できるだけ証言を聞いて集めて伝えていくことが、私たちのやるべき仕事です。時間との闘いの中で、これからは「物」が語っていくということになるとも思っています。
過去に向き合わなければ未来には進めません。戦争の時代に起きたことや、人々がどう関わっていたかを伝えていくことが大切です。私たちに課せられているのは、先人が何を残したか、そこから何を汲み取るべきかを伝えることです。そこから自分たちの在り様は自ずと見えてくるのではないか、そんな思いを持っています。
2001年の「アメリカ同時多発テロ事件」でアメリカを取材した際、テレビではニュースキャスターが好戦的な発言をし、街中に星条旗があふれ、メジャーリーグの試合でもUSAコールが突然起きるなど、国全体が一気に戦争に向かうムードになりました。世論は一気に戦争へと流れていくのだということを、感じた記憶があります。
私たちの国もそうならないと言えるのでしょうか? そうした流れをなんとか止められないかと頑張ったのが、堀悌吉や山本五十六だったのではないでしょうか。抗いようのない大きな流れの中で、個として何が出来るのか、問われるのだろうと思います。
――最後に、視聴者に伝えたいこと、感じてほしいことをお聞かせください。
番組は、8月16日、堀悌吉の誕生日の放送です。こんな偶然もあるのかなと思います。「8月ジャーナリズム」という言葉があり、8月になると戦争を扱う番組が多くなるが、その他の時期はやらないじゃないかと責められることがあります。それでも、私たちは時期を問わず、戦争を顧みる視点を持っているつもりです。
番組は、なぜこの国が破滅の道に向かっていったのか、その原点を考えさせられる一つのエピソードです。終戦の日のタイミングで、二度と同じ道を歩まないために、自分たちの在り様をもう一度考えるきっかけになればうれしく思います。
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