<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「博多大吉がキンコン西野に懸けた『期待』」【短期集中連載/第3回】

2020/09/07 17:00 配信

芸能一般


物語が動いたのは、そこからです。堰(せき)を切ったように、お客さんがギャラリーの中に流れこんできました。あるお客さんは、ギャラリーの前に立ち、「騙されたと思って、ちょっと中を覗いてみろ」と通行人に声をかけてくださいます。数時間後にはギャラリーはお客さんで溢れ返り、現地メディアが取材に来て、その様子は日本でもヤフーのトップニュースで流れました。お爺さんが来る前までとは、まるで別景色です。日本にいる間に、ツイッターでやり取りさせていただいた方も、お友達を連れて来てくださいました。「西野さん、ここは挑戦者を受け入れる街です」という言葉が今も胸に残っています。「1ヶ月後にニューヨークで個展を開催する」というデタラメな挑戦は、決して数字だけではない大きな成果をあげ、幕を降ろしました。

博多大吉さんに教わった「期待に追いつこうとする力」


メディアで報じられるときは、どうしてもスマートな部分だけが抽出されてしまいますが、裏側はこの通り「ドブ板営業」の積み重ねです。このことは全ての挑戦者と共有しておきたいと思います。

そして最後に、まだ何者でもない挑戦者を前に推し進めてくれる力についてお話ししたいと思います。

ニューヨークに挑むことを表明した日。漫才コンビ「博多華丸・大吉」の大吉さんから御連絡をいただきました。これまで、お仕事で御一緒させていただく機会もほとんどなかった先輩です。

「あの大吉さんが、僕に何の用だろう?」

話を聞くと、炎上中のクラウドファンディングのことでした。そこには、僕がオリジナルの絵を描く「30万円」のリターンがありました。値段も値段なので、「売れたらラッキー」ぐらいの気持ちで用意していたリターンです。大吉さんは、そのリターンのことに触れ、言いました。

「30万円のリターン。僕が買わせてもらうね」

驚きました。自分で販売しておきながら、「え? これ、買うんですか?」と言ったほど。

ところが、大吉さんは冷静です。

「いや、たぶん、そんな驚くことじゃなくて、西野君の絵を30万円で買えるチャンスは今回が最後で、まもなくキミは世間に見つかって、キミの絵は買えなくなる。得をしているのは僕の方だよ」

絵本作家として走り出したものの、いまだヒット作に恵まれず、「落ちぶれた芸人」として扱われている頃。「えんとつ町のプペル」が出る4年も前の話です。大吉さんも、当時は、まだ今ほどの売れっ子タレントではなくて、お金に余裕なんてなかったハズです。しかし、大吉さんの言葉には迷いがありませんでした。

「西野君の絵を30万円で買えるチャンスは、これが最後で、まもなくキミは世間に見つかって、キミの絵は買えなくなる」

それから数年後。大吉さんの言った通りになりました。というより、大吉さんの言った通りになるように持っていきました。そうしないと、「あの日の大吉さんの言葉が間違いだった」ということになるからです。その未来だけは迎えてはいけません。

まだ何者でもない自分に賭けてくれた人を、結果で否定するようなことだけはしたくなくて、僕は必死で大吉さんの期待に追いつきました。

今、僕は後輩を育てる立場にあります。彼らはまだ何者でもなくて、「情熱」ぐらいしか持ち合わせていません。彼らのような「まだ何者でもない挑戦者」を何者かにする一つの方法として、「大いに期待を寄せて『急成長をして結果を出さないと裏切り者になってしまう環境』を与える」というやり方があることを大吉さんのエールから学びました。まぁ、少々乱暴ですが(笑)。

期待を寄せることにはリスクがあります。裏切られることがあるから。それでも、「期待に追いつこうとする力」の強さを僕は知っています。今度は僕が期待する番かもしれません。(第4回は9月14日[月]更新予定)

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